図書室の主 | ナノ

硝子の棺は部屋の中

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 悠太の誕生日を台無しにしたことを謝ることもできなかった。
 もっともっと、甘えてほしいのに。
 ごめん。
 ……ごめん。

*****

 幼馴染に電話を入れるのは久し振りだった。
『――どうした?』
 挨拶もなく、いきなり用件を聞いてきた緒方の声を聞くのは両親の法事以来だ。
 若いのに義理固い男で、暁は悠太の次に感謝している。しかし今回は別の理由で彼を選んだ。
「悪いね。ちょっと相談があるんだけど、今度の休日、時間をちょうだい?」
『わかった。土曜と日曜、どっちがいい』
「土曜。場所は、我が家で」
 その日は真朝が外出している。
 さして迷う素振りもなく、緒方は承諾してくれた。


「久しぶり、緒方」
 週末を迎えるまで、気が休まらなかった暁だが、幼馴染の姿を見るとほっとした。
「ああ。お邪魔します。――これ、土産だ。名賀と暁で食え」
「ありがと」
 名賀と暁。緒方しか使わない独特の表現に苦笑しつつ、緒方の差し出した紙袋を受け取る。
「きみが作ったの?」
「ああ」
「真朝が妊娠したんだ」
「――おめでとう、って感じではないな」
 暁の切り出し方一つで雰囲気を読み取った緒方に舌を巻きつつ、暁は頷く。
「真朝はひとりで産んで育てるつもり。相手の男の名前も言わない」
「わかった。暁、それ以上言うな」
 腕を組んで退屈そうに緒方は首を回す。
「これは、俺が勝手に調べて知ったことだ。それを黙ってることができず、うっかりと弟である暁に話すこともあるだろう。俺は今日、ふらりと友人の家を訪れたけれど何も聞いていない。昔話に興じた。近いうちにまた、ふたりきりで話したくなるかもしれない。そうだろう?」



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