図書室の主 | ナノ

硝子の棺は部屋の中

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 何もかも真朝に押し付けてきたが、それとこれでは話が違う。
 自分たちふたりの問題ではないのだ。
 ふたりきりの沈黙、緩やかに過ぎていく時間。
 母の愛用していた置時計が午前0時を告げる。
「真朝」
 喉がからからに乾いていたせいで、姉を呼ぶ声は掠れていた。
 この短時間で答えなど出るわけがない、しかし暁にはそれ以外の選択肢が思い浮かばなかった。
「その子の籍は、俺に入れる。いいね」
 有無を言わさぬように告げると真朝は反発するかと思ったが、何も言わない。
 人の心に敏い姉は、自嘲気味に唇を歪める。
「結婚するときに枷になるから?」
「そう。それに、俺が男が好きなこと、わかってるでしょ」
 本当は女の子の方が好きだが、嘘も方便だ。
 真朝にはきっと見抜かれているけれど、暁は真摯に姉を見つめ返した。
「予定日は12月24日」
 ぽつりと姉が呟き、暁は日数を逆算する。
 暁が悠太の元へ行った前後だ。
「クリスマスイブ。素敵でしょう」
 途端に罪悪感に襲われ、叫びたい気分に駆られた。
 何が悪かったのか。
 両親が亡くなったこと?
 暁が姉をひとり置いて逃げたこと?
 間違いなく、後者だ。
「それまで、考えさせて」
 暁はただ、頷いた。
 真朝が暁の選択を呑んでくれるだろうことも、半ば確信していた。

*****

 殆ど眠れないまま、暁は夜を明かした。
 悠太には連絡を入れた。実家に戻ることだけ伝えると、後で荷物を持ってきてくれると言う。
 さすがに悪いと思ってそのときに断ったが、その日の午後、悠太は本当に持ってきてくれた。
 理由も訊かずに、彼は優しく笑った。



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