図書室の主 | ナノ

真っ赤な林檎は籠の中

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「そうだね。元恋人のことは気になるよね」
 茶化すように悠太が言うと、緒方はふん、と笑って包丁の柄を悠太へ向けた。
「返そう。お前のものだ。できることなら、使ってほしくはないが」
「きみらしくないね。自分と恋人以外はどうなってもいいのかと思っていたよ」
「元恋人は気になるんでな」
 皮肉っぽく吐き捨てた彼の背を見送った。

*****

「俺は人生で100回、恋をする。きみは記念すべきひとりめだ」
 目の前のクラスメイトが迷惑そうに眉間に皺を寄せた。

*****

 今でも忘れられない瞬間がある。
 暁と緒方が付き合っていたから、悠太なんて見向きもしないと思っていたのに暁は悠太の手を取った。
 なのに暁と幼馴染だった緒方にはずっと勝てる気がしなかった。
「好きならやっちまえ、か」
 きみらしいよ、緒方。
 ベビーカーを押す彼の背に足音を殺して迫る。
 2度目の恋を探せと言ったきみには悪いけど。
 これが最初で最後の恋だったみたいだ。
 あと少しで、終わる。包丁が輝きを増したように見えた。
 ――彼が振り返った。
 まずいと思うのに体が止まらない。
 ベビーカーは空っぽだった。よかったと思う自分がいた。
 彼は微笑んでいた。
 嫌だ、暁、避けろ――ッ!
「きみを殺人犯にする気はないよ」
 誰のせいで……ッ!
 唇を奪われた瞬間、涙が零れた。
 暁がどんなに最低な男だったとしても、悠太が暁を好きであった事実は消せないのだ。
「馬鹿にしないでよ」



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