図書室の主 | ナノ

真っ赤な林檎は籠の中

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 刃物を振りまわすだけでは芸がない。
 娘を誘拐するか。
 ――どうやって。
 首を絞めるか。
 ――そこまで近づくのが難儀だ。
 食べ物に毒物を混入?
 無理だ。このご時世、差出人不明の食べ物に手をつけたりなんかしない。
「あー……」
 暁とよく来た喫茶店でコーヒーを飲みながら、悠太は呻く。
 計画を練っているものの、証拠に残るとまずいからすべて頭の中で進行中だ。
「草場さん、今日は機嫌が良さそうなのね」
「ええ、まあ……」
 店主であるご婦人が優しく話しかけてくれたので悠太は曖昧に笑った。
「名賀さんはお元気?」
「はい」
 子どもまで作って、幸せそうですよ。
 言おうと思って、やめた。
「あいつ、最近こちらへは来てないんですか?」
「そうなの。全然お姿を見かけなくてね」
 ふうん。
 心の中で相槌を打ちながら、悠太は笑う。
 そうか。
 まずは、暁の行動パターンを把握しなくては。

*****

 彼は実家に住んでいた。
 娘をベビーカーに乗せて近所のスーパーまで買い物に行き、帰ってくる。大学が春休み中だからなのだろう、保育園に行っている気配もない。
 女性が出入りしているようだったが、顔を確認したら彼の姉だった。
 姪の世話で疲れているのか、彼とは対照的にあまり幸せそうではない。
 実行するなら早い方がいい。
 彼とその娘を手に掛けたら、悠太もすぐに後を追うつもりだ。
 やり直しのきく人生も、塀の中ではたかが知れている。



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