図書室の主 | ナノ

頑張れ鈴原くん!

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「あー……。俺、緒方に振られたし。――鈴原くん、そこにいないで入っておいで。これ以上、サービスできない」
 天使と評される人は苦笑交じりに鈴原を招き入れた。
 振られた? どういうことだ。
 扉の外にいた鈴原に気づいたことよりも、そちらで頭が占められる。
「君は昔の緒方を知らないからねえ」
 気の毒そうに呟いた名賀は「まあ、俺も知らないけどね」と続けた。
「あの、緒方先輩は樋山先輩の行きたいところに行く、と……」
 ふたりが吹き出した。
 鈴原は意味がわからない。
「ほんっとに面倒臭がりだなあ」
「しかも鈴原に誤解されてるし」
 お腹を抱え、笑い続ける先輩ふたりを見ていると鈴原は段々腹が立ってきた。
「名賀、どこ行きたい?」
「んっんー。樋山の行きたいところでいいよー?」
「もー、緒方の台詞パクんなよー」
 そしてまた、くすくす笑う。
「図書館か、本屋だね。緒方が選ぶなら」
「失礼な。大人数で行動するなら、俺でももっとましなところを選ぶぞ」
 仁王立ちをした緒方が扉に立っていて、名賀と樋山が蒼褪めるのを鈴原は呆れて見ていた。

*****

 ――これで学園祭後片付けは終了します。みなさん、ご協力ありがとうございました。
 放送スイッチを切った瞬間、崩れ落ちる緒方の体を支えたのは樋山。
「このまま保健室に連れていくよ」
「……離せ」
「嫌。――ごめん、出ていってくれる? ここから先は」
 大人の時間だよ、と言う樋山は悪魔のような笑みを浮かべていた。
 緒方は抵抗する気力もないのかぐったりしていて、名賀は肩を竦めると放送室のドアを開けた。
「はーい、いい子たちは出て行こうねー」
 倉木に促され出ていく直前に鈴原が見たのは、樋山に何かを囁かれ幸せそうに笑う緒方の横顔だった。



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