図書室の主 | ナノ

頑張れ鈴原くん!

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「恭介、この子を甘やかしてんの? やめときな、恭介が疲れるだけだ」
 視界の隅で倉木が頷くのが見えて、鈴原は泣きたくなった。
 ちゃらちゃらしてるくせに。
 緒方先輩に甘えっぱなしのくせに。
「奇襲かけられても大丈夫なように、もう一度、練り直しておいで」
「――先輩方は」
「ん?」
「なんで今日、いらしたんですか?」
「勘」
 意を決して訊いたのに、美化委員長はふざけているとしか思えない答えをよこした。
「こいつのね」
 手のひらで示された風紀委員長はにっこり笑った。
「君、紙はシュレッターに掛けた方がいいよ」
 ……ゴミの回収は美化委員のはずだ。
 じっとりと食えない高2の先輩たちを睨むと、緒方、名賀、倉木、樋山、美化委員長に風紀委員長がそっくりなあくどい笑みを浮かべた。
「俺、友達には恵まれてんだよね。緒方たちはなーにも言ってないよ」
 照れたように美化委員が笑いながら言った。

 後日、鈴原は知る。
 美化委員も高1以下の仕事が少ないことを。じゃあ、その分は誰がやっているのか。
 高2全体が、美化委員の仕事を分担していたことを。美化委員だけではない。風紀委員、宗教委員、保健委員、体育委員、図書委員、ベルマーク委員。委員会自体が形骸化し、高2が全体となって動いていた。
 その中心が樋山であり、彼の働く量が一番多いことも、知った。
「今まで、どうやって委員会が機能していたんですか」
「機能していたことなんてないよ。少なくともここ5年はね」
 名賀は放心気味の鈴原に微笑みかける。
「高2になるまで、気づくことはないんだけど、先輩方は何もしてこなかった」
 だけどね。いたずらっぽい笑みを浮かべた名賀は、生徒会室の奥で樋山とじゃれる緒方を見遣る。
「緒方と樋山は図書室に出入りすることが多くてね。図書委員が機能していないことを知って全部が形骸化していることを突き止めた。変えるためには、低学年がピーピー言っても仕方がないだろう? 樋山は緒方に言われて動いたわけじゃないよ。彼らは以心伝心なの」



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