図書室の主 | ナノ

頑張れ鈴原くん!

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「あー、ごめん。ここにいるよ」
 樋山は美化委員長の背中に飛び乗ったらしい。
 通常よりも高い位置にある樋山の顔は美化委員長の横から生えている。
「中に入ろうよ。なんでここに突っ立ってるの?」
「恭介が遅れてこなければすんなり行ったんだけどね」
 美化委員長が初めて口を開いた。
「あはは、ごめんごめん。ついでに俺の席まで乗せてって」
 甘えたように肩甲骨に頬をすり寄せる樋山に聞こえよがしの溜め息を吐いた美化委員長は律義に彼を運んでいく。
「緒方、お前、恭介管理しとけよ」
「無理。俺、こいつから監査される立場だし」
「固いこと言って逃げようってか」
「まあな」
 軽口を叩く緒方はそんなに珍しくない。
 同級生相手だと、人形みたいな表情が綻ぶ。それを見ることが鈴原の心の拠り所でもある。
「ちょっと、そこ。油売ってないで。始めるよ。鈴原くん、プレゼンできる?」
「――っ、はいっ!」
 中学生たちが長机を広げてそちらに移ってくれたので、鈴原は礼を言ってプレゼンを始める。
 シャーペンをレジュメに走らせ、委員長たちは鈴原の説明を聞いていた。
 3分も掛からずに終わってしまった。
「美化委員と風紀委員の違い、言える?」
 風紀委員長が鈴原へ問いかけた。
 鈴原は首を横に振る。そう、そこがずっと疑問だった。役割が明確でないから、統合してもいいはずなのに。
「美化委員は校内のものの整理。風紀委員は生徒の身だしなみ。だから、美化委員の方が必然的に仕事が多くなる。風紀委員は風紀検査や挨拶運動くらいしかないからね」
「だから、分担してもいいじゃないですか」
「役割が違うんだ、って言っただろう」
 言いながら美化委員長がくるり、とシャーペンを手の中で回す。
「俺ら美化委員は今の仕事に不満はないよ? だから、協力はしない。君単独で、風紀委員を説得できるのか?」
「そのために今、根回しをしてるんじゃん」
 のんびりとした声が割って入った。樋山だ。
「ちゃーんと、鈴原くんの言葉、聞いてよ」



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