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頑張れ鈴原くん!

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 否定の言葉を望んでいたのにあっさり肯定され、一瞬何を言われたか理解ができなかった。
 理解し固まる鈴原へ穏やかに微笑みかけた名賀は続ける。
「公立の子はなんだかんだ言って逞しい。鈴原みたいにね。それに対し夏扇の子はひ弱。適応能力が低い気がする。倉木は?」
「まあ、否定はしない。鈴原は? どう思ってんの」
「俺は……」
「悪口になってもいいよ」
 鈴原が何に躊躇っているかわかっている、というように名賀が微笑む。鈴原は力なく首を横に振った。
「俺は、よくわかりません。樋山先輩と緒方先輩は幸せそうで、誰も先輩方を弾いていない。じゃあ、今まで何人が濡れ衣でいじめられてきたんだろうって……」
 倉木が意味深長な笑みを浮かべていたので鈴原は言葉を切る。
「あのな、鈴原は中学からの外部だろ? だからわからないかもしれないけど、ホモっていうのはある意味、隠れ蓑。もともとよく思われてない奴に噂が立ってる。例えば、ふたり一緒に消えたってのは聞かないだろう?」
「ええ、まあ……」
「気に入らない奴に近づいて、証拠を押さえて、一気に潰す。囮捜査みたいなものだ」
 こともなげに言う倉木。そこからは罪悪感が微塵も感じられず、愉しげでさえある。
「……倉木先輩は、やったことがあるんですか?」
「鈴原、それは禁じ手だよ」
 名賀が鈴原を諌めた。
「人をいじめたことがない人なんて、いないよ」
 続けられた言葉は明るい狂気を孕んでおり、鈴原は思わず手の中のファイルを落としてしまった。
「はは、鈴原は純情だな」
 それらをすべて拾い上げた倉木はぽんぽんと鈴原の肩を叩く。
「さて、そろそろ職員室に行こうか?」

*****

「ふーん。つまり鈴原くんはそう思うと」
 ゴミ回収に関する提案書にちらりと目を落とし、樋山はしばらく腕組みをして考え込んでいた。
 その隣で坂井が冷たい表情で何かを書き加えている。



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