図書室の主 | ナノ

頑張れ鈴原くん!

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「先輩方は、変とか気持ち悪いとか思わないんですか」
 ぽつりと口を突いた言葉の残酷さに鈴原は自身の口元を覆った。あのふたりがくっついているのを見て気持ち悪いと思ったことなんて一度もなかったのに、何も考えずに言ってしまった。
 ただ、無条件の相手への信頼やビジュアルが、そして噂も相俟ってまるで彼らが本当に恋をしているようで。ふたりが本当に幸せそうに見えて、羨ましく見える日もある。
 しかしここは閉鎖的な男子校、同性愛をタブー視する環境。緒方と樋山のように同性愛を想起させるような関係は通常、気持ち悪いと評される。そこへ身を置いて4年目の鈴原は、困った困ったと言いながら、緒方と樋山を温かく見守る先輩ふたりの態度が不思議でならない。
 鈴原の質問に名賀と倉木は顔を見合わせた。名賀が倉木へ「お先にどうぞ」と言い、倉木は肩を竦めて溜め息を吐く。
「面倒事は俺に押し付ければいいと思ってるんだろう、暁」
「わかってるなら早く言ってよ」
 恨めしげな倉木の視線を涼しい顔で交わした名賀は「ちょっと寄り道しようね」と中庭へ続く廊下を歩き始めた。
 倉木が話すまで名賀も話す気はないらしい。鈴原の視線に気づいて倉木は諦めたように天を仰いだ。
「俺は恭介と幼稚園からの知り合いだし」と倉木。
「俺は姉が小学校のとき緒方と6年間クラスメイトだったから昔から知ってるし」と名賀。
「「ふたりが幸せならいいって思っちゃうかな」」
 楽しそうにハモったふたりは声を上げて笑い、訊く相手を間違えた鈴原はひとり自らの不運を嘆く。
 幼稚園からの内部進学者である倉木と、中学校からの外部生である名賀、しかし小学校は別の私立に通っていたためある意味内部生より強い。
「ホモが気持ち悪い」と公言し、本当か嘘かは関係なく「そう見えた」時点で同胞を容赦なくいじめるこの夏扇学園の生徒たち。その中で自分たちの親しい人であれば「幸せならいい」だなんて俺様ルールにも程がある。
「私立は灰汁の強い人間の集まりだからやめておけ」と鈴原の中学受験を阻止しようとした幼馴染の忠告が脳裏を過る。もう遅い。だって、あと2年間の我慢だ。
 考えてみれば今年の生徒会執行部は鈴原以外、全員私立小出身者だ。
「名賀先輩」
「ん?」
「俺の僻みかもしれないんですけど。小学校の私立出身と公立出身って違うと思いますか?」
「思う」



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