本編
彼が目を見開き樋山を見る。驚いたらしい。
樋山も緒方を見た。移動し後ろから彼を抱きしめると腕の中で小さく震えた。
「いつか俺が、みんなの前で緒方のことを好きだと言えるまで、さ、待ってて」
「……自惚れるな」
「緒方は待っててくれるよ」
「すごい自信だな」
「俺が、緒方を好きなんだから」
「見くびるなよ。俺は逃げ道なんかいらない」
ああ、彼らしい。
笑って首筋に顔を埋めたら彼の匂いがした。
「樋山」
「んー?」
「お前が俺に惚れたこと、後悔させないから」
待ってる、と消え入りそうな声で呟かれた言葉に心臓を打ち抜かれた。
何か言おうと思って、やめた。
この幸せな空気を噛みしめていたかったから。
*******
終業式の放課後。
図書室のいつもの場所にて彼にかじりついて本を読む前に。
「ねえ、緒方。俺が告白してから実質二ヶ月ちょっと。やっぱり緒方が好きだよ」
「そうか」
「緒方、夏休み遊ぼう?」
「そうだな」
なんの噂も立たなかった。あの七人もいつも通り接してくる。恥知らずと思うが面倒なので表面上何事もなかった日々が過ぎた。
タイムリミットも晴れ晴れとした気持ちで迎えることができた。
「緒方、好き」
「知ってる」
恋人でもない、友達でもない関係が続く。
「俺、緒方を振り向かせることできた?」
「……それなりに」
「どこに遊びにいこっか。どこがいい?」
「本屋」
ああ、幸せだ。
おわり。