図書室の主 | ナノ

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「もういい」


 うんざりして手を振りあげたら、掴まれた。

 誰だと睨んだら緒方の冷静な目とぶつかる。


「手を離せ」
「それはできない」


 淡々と彼は告げる。


「どんなにこいつらが悪かったとしても、傷を負わせれば俺らの責任になる。俺を害する正当な口実を与える気か? なんで俺が抵抗しなかったと思ってる? こいつらは自分のしたことを棚上げにして、チャンスとばかりに攻撃してくるぞ?」


 えげつない台詞が彼から飛び出す。でも納得なんかできなくて振りほどこうと動かすがびくともしない。


「お、俺らは! そんな卑怯なことは」
「しただろう? 見えない場所蹴ったからって証拠がないと思うなよ。あの日の傷つけられた場所は全部写真に撮っている。口裏合わせたって無駄だ」


 叫んだ宗像を一瞥し言い放った緒方はかっこよかった。

 彼は優しく笑った。それが、大丈夫だと、ごめんと言ってる気がして戸惑う。

 彼が掴んだ手を引っ張り、樋山は体ごと引き寄せられていくのを、妙にゆっくりとしたスピードで感じた。


「なあ、樋山」


 好きだ。付き合ってくれ。

 樋山にだけ聞こえるように囁かれた言葉。

 幻聴かと思ってぼーっとしてしまった。

 とりあえずふたりで話がしたいと思ったとき彼の手が離れ、樋山は振り返った。


「失せろ」


 静かな一言、それで十分だったらしい。

 なんのために七人も固まってきたのかというほど彼らはあっさり逃げ出したが、入口から悲鳴が聞こえた。

 緒方を見ると彼は肩を竦めただけで見にいく気がないらしい。仕方がないのでひとりで入口へ向かう。


「はいはい、七人ねー。クラス番号、名前を聞かせてもらおうか?」


 南が宗像を締め上げていた。それはもう、いい笑顔で。

 扉を塞ぐようにして立っているので他の六人も逃げ出せずに立ちつくしている。


「教師が暴力振るっていいと思ってんのか!?」
「同級生いじめていいわけ? さ、樋山、右ポケットにメモ用紙とペン入ってるから書いて」


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