遡及事項
「で、君の親友は見つかってよかったね」
鋭い眼光で恭介を射抜いても、彼は飄々としている。
勘のいいこいつのことだから、とっくにばれているとは思っていたけれど今日は遠慮がなさすぎる。
そもそもは、こっちが目的か。
「やだなあ。俺は今、自分が幸せだから瑞樹にも幸せになってもらいたいんだって。好きでしょ? 秋一のこと」
飛びかかって壁に押し付け、恭介の首を絞めた。
やってることはかつての秋一と同じだけど、それに伴う感情はまったく違う。
「好きだよ。悪い?」
「別に」
とん、と軽く腕を振り払われ、キスされた。
突然のことで、わけもわからなかった。
「瑞樹。俺、すごく苛々してる」
恭介の首筋に残る跡が綺麗だった。
緒方第一の恭介が、こんなことをするなんて。
何か危うい光を孕んだまま、恭介がにじり寄ってくる。
「ねえ、瑞樹。俺のこと好きだよね。抱いてよ」
「ばか言うな」
「秋一はよくて俺はだめなの?」
「秋一とはそんな関係じゃない」
「嘘。好きだって言った。ねえ、瑞樹……」
ふと頭に閃いた。
「実家に帰らせていただきます」
「え」
呆気にとられている恭介を置いて、鍵とケータイ、財布を手に取り、無我夢中で家を飛び出す。
律義な恭介のことだ、鍵を開けっ放しにしたままあの家を放置することはない。
風呂上がりのさっぱりした体に滲む汗は暑さのせいだと思いたかった。
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