本編
返事する間がもどかしくて鍵を南の手に押しつけた。
中に飛び込んだら、いつもの場所で六人が彼を取り囲み、一人が彼の胸倉を掴んでいて血の気が引いた。遠目の後ろ姿からは誰かわからない。
律義に脱いである彼らの上靴を踏みつけると一瞬彼と目が合い逸らされた。7対2。殴り合いになったら不利だ。だけど、それがどうした。
なにかあったら南が来てくれるという確信があった。躊躇う理由はない。
一歩踏み出す。口元には笑みさえ浮かんでいた。
「なーにしてんのかな?」
「っ、恭介」
彼の胸倉を掴んでいた宗像(むなかた)が慌てて手を離す。緒方は何事もなかったかのように胸元を手で払っていた。
「遅い」
「ごめん」
二人で並び立つ。
樋山は七人をひとりひとり睨み据えた。目が合ったある者は樋山の怒りに目を逸らし、目を伏せ、後ずさった。情けない。
いつも弁当を食べているメンバーとは異なるものの、仲のいい、幼稚園や小学校からの同級生たち。
誰も口を開こうとはせず焦れた。
逃げようとする宗像の手を掴み全体重をかけて足を踏みつけ逃げようとするのでさらにもう一回。
「ねえ、質問に答えてもらってないよ。なにしてんの?」
「俺は悪くない!」
「そんなこと訊いてないよ」
「恭介、おかしいよ。図書室に行くようになってからずっとこいつといて」
「当たり前だろ? 友達なんだから」
言っていてずきりと胸が痛んだ。恋心をここで言えない自分が悔しい。ちらりとこちらを見遣る緒方が見れずに俯いた。
「やっぱり恭介おかしいよ」
ぽつりと吐きだしたのはなんでここにいるんだろうと思わせるようなおとなしめの奴。
一度声を出すと気が楽になったのかまくしたてるように言う。
「恭介、おかしいよ。なんでこいつに構うの? 先生に言われたからって放っておけばいいじゃん。なんでこいつなの? こいつのせいで恭介おかしくなったんだよ。だから一度わからせたのにこいつがまた近づくから」