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親友の影

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 ただ、高校時代の同級生たちは今も時折心配しているだろう。後で知らせようと思っていたが前言撤回。岸本だけが彼を知っていればいい。


「諦めたくないんだ」


 全部。そんな叫びが聞こえた気がした。俺の、親友。


「ねえ、秋一。君のそういうところ、本当に好きだよ」

「今、それを言うのか」

「うん。だからね、秋一、嫌い」

 その言葉の意味は伝わったのだろうか。不機嫌そうな瞳に囁くと瞳の奥に光が戻ってきた。


「親友のくせに?」

「知人と言い張る君に言われたくないね」

「――岸本、好き。友達はいらない」

「またそんなこと言って。わかってるよ、俺ら親友だからね」

「岸本!」


 彼を引き剥がし、前から泣きそうな秋一を力いっぱい抱きしめた。
「今の君なら、俺は壊れない。だから、怖がらなくていいんだよ秋一。俺はちゃんと君の親友でいられる」

「友達にしかなれないんじゃなかったのか」

「友達はいらないんでしょう。じゃあ、親友だね」

「きしもと、っ」


 ずるいってわかってる。満たされるなら、親友でも恋人でもいいはずだ、なんて彼を否定して。言い訳しよう。岸本は、どんな呼称でもよかった。

 でも、共に過ごしたいと願うからこそ。

「秋一、約束しよう」


 彼の耳元で、ゆっくり告げる。

 岸本は親友が欲しい。秋一は恋人が欲しい。でもその根底は、その人と共にいたいということ。

 信じられないというように彼は顔を上げて岸本を見た。

 岸本は微笑んで、秋一の頭を肩口に埋めた。

 聞きたくないというように胸板が叩かれる。それでもやめるわけにはいかない。

 その力も段々と弱まってきて、秋一の押し殺した泣き声を聞いていたらなんだか妙にすっきりしてしまった。
 ああ、これで俺も後戻りできないねえなんて思いながら彼の頭を撫でる。

 岸本と秋一の約束は、果たされるそのときまでふたりだけのものだ。


おわり



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