親友の影
ああもう埒が明かない。
「秋一、俺が好き?」
「だからそう言ってるじゃないか」
「俺は秋一が嫌い」
空気が冷えた。秋一の瞳が不安げに曇る。逃げ出したくなったが、ここが踏ん張りどころだ。
「秋一が俺を壊せたら、好きになるかもしれない」
ひどいことを言ってる自覚はある。でも、それがどうした。岸本が最低なのは今更で、でも彼はそんな岸本を好きだと言ってくれている。
秋一は眉間に皺を寄せた。
「僕を、ひとりにしないで」
「壊そうとしたくせに。なんであのまま殺さなかったの。ねえ秋一、答えてよ」
秋一の、光を消した瞳が岸本を捕らえる。
ああ、そうだ、高校時代はこんな目もしていたっけと懐かしく思っていたら背後から彼に抱きかかえられた。
肩口に彼の鼻があたってくすぐったい。
「ひとりに、しないで」
「さっき首絞めたのはどちらさま」
すり、と首筋を彼の頬がなぞる。
体温を求める、ということは秋一は今すごく悩んでいるということで。
伊達に六年目の付き合いに突入していない。
待っていれば口を開くだろうと岸本は体の力を抜いて秋一にもたれかかった。
驚いたように秋一が身じろぐ。温かい体温。彼の手が頬を滑る。その手を掴んで甲にくちづけた。
岸本を殺そうとした手。岸本を欲しくて仕方がない手。いったい自分はどんな彼が欲しいんだろう。
「僕には、目標がある」
ぽつりと秋一が呟いた。
知ってるよ、秋一。
だから君は浪人して、でも掴めなくて、目標に近い場所へ入学して。
――目標を諦めきれなく、て……?
なにかが脳裏に閃く。
「岸本、今はそれしか言えない」
そうであったらいい、と思ってしまった。同時に彼らしい、とも。
「じゃあ、三ヶ月も音信不通だったくせに今日、俺のところへ来たのは?」
たったひとつの可能性なのに、声が弾んで彼の目を覗きこむ。
探しまわったことを、恩着せがましく言うつもりはない。