親友の影
最初は秋一が帰ってきてただただ安堵していたけれど。
彼のせがむカニ玉を作っていたら疑問が湧いてきて、更にはお腹が満たされたらもうそのことしか考えられない。
じとっと秋一を睨んでも、さっきふてくされて感情が抜けきってしまったのか、いつもの不機嫌そうな表情しかしていない。そういえば首絞められたことに関する謝罪がないぞ。
「ねえ」
呼びかけても、目線すらこちらにやらないってどういうことだ。
軽く頭痛を覚えつつ、再度呼びかけるが無視。
いやもういい、慣れた。寂しいけど。
ていうか、秋一は俺のことが好きじゃなかったっけ、と先程の確信のもとに彼の頬を突けば恨めしげに見上げられた。
いやいや恨めしいのは俺の方なんですけどと言いたいのをぐっと堪えて質問をぶつけてみた。
「君、大学は?」
ふいと目を逸らされ、ああ言いたくないんだね、じゃなくて。とりあえず質問を変えよう。
「秋一、君ねえ……。君が失踪したっていう噂、知ってるかい?」
「知ってる」
まったく悪びれた様子がない。さすが我が親友と岸本は嘆きたいような嬉しいような複雑な気分だ。
「なんで返事くれなかったの」
「岸本、好きだ」
沈黙。さっき聞きたかった答えを今ここで言われても困る。聞かなかったことにして時間を巻き戻す。
「なんで返事をくれなかったの」
「返事をくれ」
会話がまったくかみ合わない。秋一と視線が交差し火花が散る。
――『わかってて、かわすんだな』
ふいに秋一の言葉が蘇る。
彼が岸本を好きだということを、岸本が気づいていることを秋一は知ってしまった。
やけになって言われても返事できるわけがない。
じいっとこちらを睨んでいた秋一が目を逸らす。
「明日帰る」
「そうかい相変わらず唐突だね。でも駄目だよ。ちゃんと答えて」
「情けないな、自ら考えることを放棄するとは」
「ノーヒントでどうやって答えに辿りつけと言うんだい?」
「大丈夫だ岸本、僕は君が好きだ」
「それはさっき聞いた」