親友の影
「……満たされない」
「わかっ、て、る」
「わかってて、かわすんだな」
「俺、は、友達にしかなれない」
包み込みたいと思う。でも、手を伸ばしても彼の大きさに自分は壊れてしまう。
釣り合わない、なんて昔からわかっていたじゃないか。
ああ、死ぬかも。秋一はどんな顔してるんだろう。
今なら、訊ける。
「俺を、壊せるか」
「嫌だ」
「友達じゃだ、め?」
「不十分。そもそも友達ですらない」
駄々をこねているようで妙に納得するのは、彼が近くに本当に人を置かないから。
彼は、自分が人を壊してしまうことを知っていて、なお、人を求めずにはいられない。
もう限界だ。やっぱり今壊れるわけにはいかない。秋一をひとりにはできない。
彼を突き飛ばし酸素が雪崩れ込んできて噎せた。くらくらと眩暈がして床に膝をつく。徐々に焦点を結ぶ景色。喉を押さえ、呼吸を整えている岸本と椅子に腰かけている秋一の目が合った。
「俺なら壊してもいいと思えたんじゃないのか。そういう好きじゃないのか」
「壊れて、僕をひとりにして、どうするんだ」
自己中心的な王子さま。好んで孤独に身を置く癖に誰よりも光を渇望する。
「そのときはまた、別の誰かを探せばいい」
秋一が机に突っ伏した。ふてくされているのがわかって、彼の頭を撫でてやる。
「……最悪だ」
「そうだな」
「岸本のせいなのに」
「人のせいにするのはよくない」
「いつか、壊してやる」
「どうぞ。そのときは君も壊れるんだよ」
エコバックを片手に玄関で、振り返らず彼に告げる。
「まずは買い物に付き合って」
「――買い物?」
「カニ玉。君が言ったんでしょう」
振り返れば、まあるく見開かれた茶色い瞳がこちらを食い入るように見つめていて今度こそ笑った。
壊れるにしても壊されるにしても、まだ時間はあるらしい。
おわり