親友の影
秋一が失踪して三ヶ月。
街を回るのにも疲れてきていたから、家の扉の前に佇む人影が希望の見せる幻覚だと思ってしまった。
「待っててくれるんだろう」
なのに秋一は腕組みをしてふんぞり返っていて、消えてしまうんじゃないかと触れた肩はいつもどおりがっしりしていた。
「今日がカニ玉で明日がニラ玉、焼肉、お好み焼き」
ああ、ならまた買い物に行かなくちゃ。
怒る気はしなかった。
「もう、いきなりいなくなったりしないでね」
家に秋一を放り込み、お茶を淹れて一息ついて、秋一に掛ける言葉はいろいろ思い浮かんだけれど無意識に口を突いたのは少し恨みがましい言葉だった。
「約束はできない」
「もう……。君の友達、もちろん俺も心配していたんだよ」
「だからどうした」
冷めた目に怯みそうになるが、彼の明るい茶色の瞳の揺れを岸本は見逃さなかった。
秋一の欲している何かまであと少しだと確信を得て彼を見据え言葉を選ぶ。
「なんで最後が俺だった」
ゆっくりと吐きだした言葉は白々しく浮いてしまった。
案の定彼はこちらを一瞬軽蔑した目で見遣り、馬鹿にしたように唇を歪めた。
彼がどんな答えを告げるかわかっていて、それに向き合う気もないくせに彼に言わせてみたいと仄暗い感情を抱いた自分が叫ぶ。同時に聞きたくないと普段の自分が耳を塞ごうとして岸本は混乱した。
「そんなに僕に言わせたいのか。わかっていて、親友で、それでもお前は言わせるのか」
「あ、や、しゅうぃ――」
偽善者。今の自分はその言葉がよく似合う。
秋一の瞳から光が消える。胸倉を掴まれ壁際に叩きつけられた。
彼が岸本の首に力を込めてきたのに抵抗する気にもなれない。どんどん空気が薄くなる。
「想いが欲しかった。でも得られない。得られないのなら意味がない。なら最初から求めなければいい。区切りをつけようと思った」
意識的に感情を削ぎ落とした秋一と静かに怒りが湧いてきた岸本の視線が交錯する。どちらも逸らさない。
「同窓会にも行かない。未練が募るのは嫌だ。だからこれが最後と決めて会いに行こうと思ったが、最初で最後でいいから」
ふっと躊躇うように彼の目が伏せられた。同時に手が緩められ、とん、と胸板を叩かれる。