親友の影
「諦めなよ。自称親友の瑞樹には心開いてるように見えたけど、結局その程度だったんだって」
電話の先で幼馴染の寛樹に言われて、怒るよりも、ああそうかもと思ってしまった。
それでも諦めるわけにはいかない。だって秋一は岸本の親友だから。
いろんな人に訊いてまわった。誰も彼の消息を知らない。焦りばかりが募る。
どうすればいいか薄々わかっている。彼の家を訪ねていけばいい。それができないのは、もしそこに秋一がいなかったときの自分の感情が予測できないから。
言い訳がましく考えて、礼を言って切った。
【今、どこにいる】
ケータイに何度も打ち、そして消した言葉。もしメールが届かなかったそのとき岸本は立ち直れない。
秋一が最後に誰かと連絡を取ったのは岸本と別れた直後。
メールは届くのに、その翌日から返事がない。
秋一が最後に会ったのが自分かもしれないと知ったとき岸本は理由を考えた。
事件に巻き込まれたのか。自主的にいなくなったのか。
真相がどちらであれ、誰も驚かないだろう。
事件に巻き込まれたなら、なんで我が家の付近で。
自主的にいなくなったなら、なんで最後が俺なんだ。
【待ってる】
指先が消そうとして、消したくなくて悩んで送った。どうやら無事に届いたらしいけれど、気持ちは晴れない。
ひとつ決めた。返事があるまで一日一通、メールを送ろう。
【カニ玉】
【ニラ玉】
【焼肉】
【お好み焼き】
できるだけ秋一の興味を惹きそうなものを打とうとしても料理しか思い浮かばないのが自分でも情けない。
親友って言ったのは自分だけじゃない、秋一も言ってくれた。だからきっとなにかあるはずだと記憶を遡るがまったく出てこない。
何もしない自分が嫌で街に出て秋一の思い出とひっかかりそうなものを探した。
卒業アルバムを見て、彼との記憶を掘り起こして。
街の中、道行く人の顔を見て、彼を探して、あの不機嫌そうな目が見つからないことに哀しくなって、でも探すのをやめられない。
「秋一、どこにいるんだよ」
ぽつりと口を突くひとりごとに自嘲する。
そもそもなんで俺はこんなに必死にあいつを探す。
会った最後の日、様子がいつもと違ったのに何もしなかった罪悪感か。引き留めればよかった、と今になって言っても遅いのに。
――親友を探している自分が好きなだけだろう。なあ、自称親友。
秋一ならきっと、そう言う。
そしてそれはあまり外れてないと岸本自身も思う。
探して、探して、見つかったときには大喜びして。
――心配した、と言葉をかけてやって、人を信じようとしない秋一に信じてほしいのだ。
いろんな人が、君のことが大好きなのだと。
「は……」
いくら感傷的になっているとはいえ零れてきたのが涙だとは思いたくない。
「探さなきゃ」
口に出して、鼓舞して岸本は前を見た。
ここで諦めたら親友の名が廃る。
おわり