図書室の主 | ナノ

本編

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 緒方とまた話すようになって二日が過ぎた。せっかくの日曜日も、来週の今頃はもう決着がついていると思ったらそわそわしてどうにも落ち着かない。

 結局己のことしか考えていない身勝手さを嗤った。

 犯人はまだ絞り込めていない。一週間前の記憶なんて曖昧で、ひとりを疑い始めたら誰も信じられなくなって眠れなくなった。

 ぼーっとしたまま迎えた月曜日。中休みにはふらりと他の教室へ出かけて同級生たちの様子を探る。昼休みもどこか上の空で、それでも彼といられる時間は大切にしたくて一緒に本を読んだ。

 そして放課後。樋山は困惑していた。図書室の扉が開かない。こんなことは今までなかった。

 もう緒方は帰ってしまったのだろうかと重い下足室で確認するが彼の外靴はまだ残っている。

 保健室を覗いてみても誰もいない。


『俺は、嫌いだよ樋山』


 彼の冷たい声がこだまする。

 逃げようかどうか迷って、汗の滲む手を握りしめた。体が震えるのはなぜだ。向き合わないのはなぜだ。

 職員室への階段を駆けあがる。近くにいた見知らぬ教師に怒鳴るように声をかけた。


「図書委員です。図書室の鍵を貸してください」
「え? そんなの普通の生徒には貸せないよ」
「じゃあ先生、ついてきてください」
「忙しい」


 まったく取り合ってもらえず焦りと苛立ちが募る。蹴りあげたい衝動を抑えて担任を探そうとしたら視界の端に南が映った。


「せんせ! 図書室の鍵貸して!」
「え……?」
「緒方が」


 そこから先は声が詰まって出なかった。叫び声が漏れそうで、奥歯を噛みしめると嫌な音がした。

 片眉を吊り上げたものの南は何も言わず鍵保管庫から鍵を出してきて樋山の掌へ落とすと一言。


「私も行く」

 冷たい金属の感触を握りしめて階段を駆け降りる。だん、とすごい音がしたので振り返ると南が7段上から飛び降りて樋山を追い越していた。

 かちり、と小さい音がして解錠する。


「鍵は私が持って外にいる。行ってこい」


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