親友の影
「だから、何にするんだ」
「何を?」
秋一の眉が吊りあがったのを見て店員のお姉さんが慌ててご注文は何になさいますかと訊いてくれた。ふんと鼻を鳴らす秋一の足を踏みつけて、とりあえずお姉さんに笑顔を向ける。
「あー。アイスウーロンティー、ショートをひとつお願いします」
「かしこまりました。お会計280円です」
お釣りなしできっちり渡しカウンターに取りに行こうとしたらすでに秋一がふたつとも引き取ってふかふかの椅子にふんぞり返っていた。だからなんで君はそんなに偉そうなんだ。
その向かい側に座ると不機嫌そうな瞳で睨まれた。
「遅い」
「はいはい悪かったね。持ってきてくれてありがと」
ちゅーと半分くらい吸い上げて噎せた。秋一の冷めた目はもう気にしない。
「で、何を話すんだ」
「そうだねえ……。いざとなると照れるね……」
今度は秋一が噎せたが一瞥もくれてやらない。表面的なことはもう話し尽くしてしまった。現在午後二時過ぎ。
「秋一は何時までおっけー?」
「今日は日付が変わるまでに帰ればいいことになってる」
「そっか」
意味もなくストローで氷を掻きまわし、残り時間を計算する。
ここからまた中心街へ行って、そこから自宅行きのバスに乗って、所要時間は三時間。秋一は一時間半といったところか。
「あ、俺、秋一に手紙書いてきたんだ。はい」
忘れないうちにと鞄をごそごそ探し、クリアファイルから封筒を差し出す。秋一は無表情で受け取ろうとしない。
「はい」
「……」
いくら岸本が秋一の不機嫌、無表情に慣れているとはいえ少し不安になってきた。
もしかしてさっきのご飯までに、今日一日中の慣れぬ気遣いや優しさを使い果たしてしまったのだろうか、なんてひどいことを考えていると指先から紙の感触が消えた。
ぺりぺりと剥ぐ音がして、無言で読んでいる。その様子をじっと見ていたら音読してほしいのか? とでも言いたげな視線が飛んできたので首を勢いよく横に振る。
目の前で読まれるだけでも恥ずかしいのに音読なんてされたら二度と秋一と顔を合わせられない。
短い文章。すぐ読み終わると思いきや秋一は何度も何度も読み返していて、ああ、彼は我儘でとても腹立つし振り回されてきたけど彼の親友でよかったと思う。