親友の影
「必要なカロリーを必要なだけ摂取しただけだ問題ない」
「それで倒れて保健室に連れていったのは誰だったっけ!」
「お前だな」
さらりと悪気なく返す彼を見て、溜め息と共にやっと本当の笑みが零れてきた。
進路を告げずに卒業してしまった同級生たち。寂しいと思いつつなかなかみんなに報告できなくて、ばたばたで引越しの準備に追われて、どうしようかと思っていた。
「わかったよ秋一、ちゃんと送る」
「手を抜くなよ」
「はいはい」
欲しい言葉をくれる彼にはまいってしまう。受験に失敗したときも、面接で必死だったときも、そのずっと前も。
彼はいつだって真剣に自分に向き合ってくれていた。
これから先、生きていってもずっと彼の影がちらつくに違いない。
ふと空を見上げて、今なにしてるかな、なんて。
「よし、じゃあ駅行くか」
「え、しゃべりたい」
「歩きながらでもいいだろう。それに、もっと話したいんだろう? 時間稼ぎになるぞ」
ぶっきらぼうの中に優しさが見えて思わず顔を覆った。
その間に会計を済ませてしまった彼が手招きしていて、もうどうでもよくなって肩を並べた。
駅へ向かうバス停へぶらぶらと歩き、これからのことや今までのことを話していたのにバスに乗ったら無言になってしまう。
岸本は窓の外を眺め秋一はうつらうつらとしていて、駅が終点でなかったら乗り過ごしていたかもしれない。
ふたりで見上げた駅ビルは記憶の中のものと全く違って綺麗だった。
「なに当たり前のことを言ってるんだ」
呆れ顔で秋一に言われ、むっとしてそれでも首が痛くなるまで見上げていたらひとりになっていた。慌てて周囲を見渡せば少し離れた場所で腕組みをしていてほっとする。
「ひどいんじゃない? 先に行くなら教えてくれてもいいでしょう」
「気づかない方が悪い」
文句言う相手を間違えた。がくりとうなだれるが彼がさっさと歩きだしたのでとぼとぼと後をついていく。
秋一の足を見ていたから、現在地がどこだか全然わからない。
「岸本。おい岸本聞いてるか」
なのに秋一は迷わず全国チェーンの喫茶店に辿りついた。いや迷ったのかもしれないが一度も歩みを止めることがなかったので岸本はそう思っている。