親友の影
「食べなよ。冷めちゃうよ」
「構わん」
頬杖ついてちらりとこちらを見る彼はどきっとするほどかっこいい。まったく今日はいったいどうしたんだ。
程なくして岸本の料理も運ばれてきて、彼がフォークとスプーンを手渡してくれて戸惑う。けれど彼が手を引っ込めなかったので受け取るとほっとしたように笑ったがそれもすぐに消えた。
「岸本。改めて、本当におめでとう」
岸本のよく知っている無表情で不機嫌そうな瞳。その奥で光が不安げに揺れていて、見てはいけないものを見た気がして咄嗟に俯いた。
彼が微かに笑ったのがわかった。
「岸本、僕は嬉しいんだ。わかってくれ」
「……ん」
「ほら、食べるぞ」
確かにおいしい。よく来るけれど、親友と少し背伸びをして入った(少なくとも岸本はそう思っている)ので余計においしく感じる。
それでも味覚と感情がかけ離れている気がして、秋一もそれっきり何もしゃべらない。
「これからどうする?」
「お前はどうしたいんだ」
「駅に行ってみたい」
ふと口をついた言葉に自分で唖然とした。先日、駅で改修工事が行われ同時に新しい店がいくつかオープンして見たいと思っていたのは確かだけど、本当は。
「訂正。秋一ともっと話したい」
慌てて本来の希望を伝えると驚いたように彼の手が止まる。
「なんでそんな誤解しそうなことを……」
彼がなにやらもそもそと呟いているが同時にフォークを動かしているためよく聞き取れない。
「まあいい。それより一人暮らしだと言っていたな」
「うん」
「不安だ。手料理の写真を送れ。毎日」
「うん?」
聞き間違いだろうか。だけど彼はいつもの無表情。本気だ。
「メールでいい。毎日ちゃんとしたもの食ってるか確認してやる。夕食だけでいい。送れ」
「……うん」
頭の中で整理する。
夕食の写真を送る。ちゃんとしたもの。つまり手料理。毎日。――毎日!?
「そんな無理」
「大丈夫だ岸本、人間やればできる」
「ちょっと待って秋一、高校時代をカロリーメイトで生き延びた君に言われたくない」