親友の影
移動教室だってたまたま一緒になるくらいだったし、ご飯を一緒に食べたのも修学旅行くらい。
朝休みや昼休みは少し話した。行事ごとで一緒になったこともあったっけ。
多いのか少ないのかわからない思い出たち。その少ない時間の中で、秋一が鮮やかに浮かび上がる。
ふと秋一がこちらを向いた。
「パスタ、中華、和食、洋食、どれがいい?」
「……なんでそんなお上品なものばかりなの」
自分の顔が引き攣っているのがわかる。なにせ普段友人同士で食べるものなんてインスタントかたこ焼き、もんじゃ、菓子パン、その程度だ。ちょっとリッチに調理パンの日もあるにはあるけれど。
「チケットが余ってるんだ。今日学校でお前と会うと言ったら母から渡された。岸本の大学が決まってたら祝ってこいと。決まってなかったらやけ食いしてこいってさ。あと、『いつも息子といてくれてありがとう』って」
ぶっきらぼうな言葉に潜む照れを見つけ出してくすぐったい気持ちになる。彼といると飽きない。
「親友だから当然だろ」
「知り合いな、知り合い。そういえば岸本は自炊なのか?」
「うん」
何やら考え込む彼を、中心街行きのバスへ押し込む。
どうせ彼と共に過ごせる時間は少ないから、秋一のお母様のお言葉に甘えよう。あとでお礼代わりにケーキでも買って彼に持たせればたぶん心は伝わるはずだ。
「で、岸本は何食いたいんだ」
思考から脱した彼がこちらを見やる。そうだまだ決めていなかった。先程の選択肢を思い出したが、やっぱりここはこれでしょう。
「んー。秋一が普段行くところ」
「じゃあ、パスタな」
バスを降りてデパートへ入る。制服姿はかなり浮くけれど、秋一も岸本も両親とよく来るので気後れせずに堂々としていることができた。
パスタ屋はさすがに同世代を来るのは初めてなのでかなり緊張したが秋一は至って普通で感心する。まあ秋一らしいけれど。
平日昼どきを少し過ぎているからか店内は閑散としている。注文して、ふと静かなことに気づいて秋一と目が合ったら逸らされた。
二月からずっと、面接の練習に付き合ってくれた。
それまで話したことの何倍も、この一ヶ月でたくさん話した気がする。
普段から親友と言っているからおかしいかもしれないが、本当に親友になったようなずるい感覚。
彼はわがままだけどいつだって誠実だったのに自分はどうしてこんなに逃げてばかりなのか。
先に秋一の料理が運ばれてきたが彼は手をつけない。