親友の影
秋一の制服姿を見るのも今日が最後だと思ったらふいに目頭が熱くなって、慌てて深呼吸をした。
学年末のため生徒立ち入り禁止の職員室。入口で見知った先生に担任平岡を呼び出してもらった。
「おー、来たか」
呑気な声が背後から聞こえ、ふたり揃って会釈する。
三週間ぶりの平岡はやつれてみえた。もう次年度へ向けて動き出す中で今年度の卒業生たちのこともしなくてはならないからまあ当然かもしれない。
秋一がそっぽを向いたので岸本から言うことにした。
「俺はこのまま進学します」
秋一と同じように固まった平岡に大学名と家も決めたことを告げる。
「いや、そりゃまあ……瑞樹の人生だから瑞樹のしたいようにするのが一番だが……。家から通えるだろう? なんで一人暮らしなんだ?」
「さすがに通学二時間半もかけたくないです」
「それもそうだな。秋一は?」
「浪人しまーす」
わかりきっていることを言わせるなと言うように平岡を睨みつける秋一。いつも通りな様子にこちらも笑みがこぼれた。
「よし、頑張れよ」
「言われなくても」
「秋一!」
「岸本は黙ってろ」
ああ、もうここを出たらこんなやりとりもできなくなるんだとしんみりしてしまった岸本を見て何を思ったのか、秋一が肘鉄を食らわせてきた。痛い。
「秋一も瑞樹もたまには学校に顔出せよ」
「はい」
「言われなくても」
「秋一!」
痛みだけでなく、彼といると冷や汗が止まらない。
担任と別れ校門をくぐり、校舎を振り返った。
「なあ、親友」
「……どうした、知り合い」
どうしようもなく不安になって秋一を呼んだ。不愉快そうに眉間に皺を寄せた彼の頭を撫でまわす。抵抗されなかったのでひょっとしたら秋一も寂しかったのかもしれない。
「ひどいなー。でもいいよ、親友」
今まで言いたいことはたくさんあったけれど振り返ってみれば共に過ごした時間は少ない。
彼に、親友という言葉を拒まれても仕方がないくらいに。