紙を捲る音
中高一貫だから、卒業式が行われるのは高三のみ。中三も一応、卒業証書はもらうものの、普通の修了式の後に担任から手渡されるだけ。
三月一日に高三を送りだした校舎はどことなく寂しげで、恭介も柄にもなくしみじみとしてしまった。
期末試験の返却も終わり、どことなく緩い空気の中、真司と恭介は図書室にいた。
彼の傍で過ごせる時間はあと三年。
胸が締め付けられそうだった。
「恭介」
呼ばれたかと思うと、背中は床に、目の前には天井。既視感。
あのときと違うのは、真司の瞳が覗きこんでくること。
「力、込めてみろ」
すぐに振り払えると思ったら、びくともしない。試しに、もう一度。
真司の口端があがる。初めて恐怖心が湧いてきた。
「真司?」
「昔は俺もやんちゃだった。怜ほどではなかったけどな」
耳元に息を吹きかけるように囁かれ、顔に熱が集まってくるのが自分でもわかる。
足が痺れてきたと思ったら、膝で上手に抑えてあってやはり身動きが取れない。
「怜ほど喧嘩慣れしてなかったから、すぐに飽きた。だけど怜は相変わらず。俺にちょっかい掛ける奴らを次々に潰していった」
楽しいだけの思い出ではないらしい。時折混じる苦々しさが恭介にも伝わってきた。
「腕が疲れた」と言って真司が退くと、恭介も体を起こす。
「このままじゃ、怜は訴えられる。だから弁護士になろうと思った」
こちらへ背を向ける彼の背は怜司とよく似ていて意外な気がした。
その背に頬を寄せたら、彼が僅かに震えた。
「俺の体が欲しかったら好きにしろ。いつだってくれてやる」
何を言われたかわからなかった。
意味を理解した瞬間、頭に血が昇った。
「真司、馬鹿にしないでくれる?」
「押し倒したくせに」
「ふざけて、ね。俺は互いを大切にする関係でありたいの。未成年なんだから性交渉なんてもってのほか。真司が他にそういう相手を求めるなら、俺は友人として君を止める」
「古いな」と唇を歪めて笑う彼の肩を掴んで、向き合った。
恭介の真剣な瞳にたじろいだように彼が目を伏せる。
「俺は、真司が好きなんだよ」
久しく言っていない言葉にも関わらず、それは滑らかに口を突く。
密やかに交わしたくちづけは冷たかった。
おわり