紙を捲る音
木瀬和輝に呼び出されて中庭に行ったら緒方怜司までいてうんざりした。
そんな恭介の心中など察しようともしない先輩コンビは呑気に欠伸をしている。
三人以外は誰もいない空間と校庭の間には見えない壁があるようで、喧騒はどこか遠くに聞こえる。
「ここ、穴場なのにね。もったいないよね」
ひとりごとのように呟いた木瀬を怜司も恭介も無視した。
「君、真司くんの夢を聞いたことある?」
憎い相手から最愛の人の名を聞いて腹が立つが、何を言っても無駄なので唇を弾き結ぶ。
無言を肯定と受け取ったらしい木瀬は満足そうに頷いた。
一挙手一投足がいちいち頭に来るが、放課後、時間は残念ながらたっぷりある。
「受験生のくせにこんなところで油売ってていいんですか?」
「ああ、心配してくれてるの? ありがとう」
ここまで心が籠ってない礼はいっそ天晴れで、恭介は息を吐いた。
「なんのためかは聞いた?」
怜司の視線を感じたので首を横に振ると鼻で笑われた。
「君、好きな者に執着するタイプに見えたんだけどね」
「何をおっしゃりたいか、さっぱり」
「わからなくていいよ。わかるはずがないもの。今の樋山くんにはね」
いったい、何のために呼ばれたんだろう。幼稚園受験しかしていない恭介にはわからないが、受験生はストレスが溜まると聞く。もしかして憂さ晴らしのために呼ばれたかな、と思ったとき、「ねえ今すごく失礼なこと考えてない?」と言われた。
「いえ、何も」
「ふーん……。修学旅行、楽しかったらしいね」
背筋が冷えた。木瀬を睨みつけても平然としている。
中二から中三にあがる春休みの直前、中学修学旅行は行われる。高校は高一のときだ。すべては受験を計算したスケジュール。
「そんな顔したって駄目だよ。あの子は何も言わなかった。ね、怜司」
怜司が嫌そうに頷く。眼鏡の淵が反射して眩しい。
「せいぜいあの子に捨てられないように頑張りな」
言いたい放題言った割には、中身はさっぱりわからない。
木瀬が怜司の背を押し、中庭を去る。
真司の将来の夢は弁護士。理由は、知らない。
おわり