紙を捲る音
短かった春休みは、二回だけ真司と出かけた。
どこに行きたいかを訊いても「恭介の行きたいところ」としか言わない彼に焦れて、悩んだ末に本屋とお気に入りの喫茶店に誘った。
本屋では楽しそうに本を選んでいた彼も、喫茶店に入ると表情が固くなった。
「なあ、恭介。笑わないでほしいんだが」
「どうしたの?」
あまりにも思い詰めた表情の真司に恭介も背筋を伸ばし、固唾を呑んで彼の声を待つ。
「俺は、あの頃のことはあまり憶えていない。だから、お前にそんな顔をしてほしくないんだ」
想像以上に重い言葉でどう返せばいいのかわからない。彼も意味もなく紅茶を掻き回していてその目は恭介を見ていない。
本当に憶えていないとしたら心の傷は深いということで、もし真司が気を遣って言っているなら言わせている自分自身に問題があるということで。
「真司。大好き」
にっこり笑って告げた恭介に、彼はほっとしたように息を吐いた。
おわり