図書委員の日常
「おはよう、緒方。愛してるよ!」
月曜の朝。彼の机に座り込んで彼を待つ。登校してくるなり叫ぶと彼の表情が盛大に引き攣った。2Cのメンバーは殆ど揃っていて、みんなこちらを見ていないようで神経を張り巡らせているのがわかる。
「もうつれないなあ。緒方は? 俺のこと好き?」
「たった今嫌いになった。邪魔」
「おーがーたーぁ!」
誰になんて言われようと、好きであることを止められるならそれは恋ではないと思うから、樋山は叫ぶのだ。
「でもそんなところも好きだよー!」
「うるさいどけ」
呆れた表情で軽くあしらわれる。それでも幸せだ。彼とまた話すことができる。
「恭介、相手にされてないじゃん」
にやにや笑みを浮かべて寛樹のつっこみが入る。亮介は笑うべきか嘆くべきか悩んでいるような顔をしていた。
樋山はめげない。
「そうだよ、確かに今は俺の一方的な片思いだよ。きっぱり振られちゃったよ。だけどいつか振り向かせてみせるからねダーリン!」
「気持ち悪い!」
本気で亮介に蹴られた。その痛みも今まで心配掛けた分、そしてこれから迷惑掛ける分だと思って甘んじて受け入れた。
朝休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。
「じゃあね、緒方! 愛してるよ!」
「……うるさい」
もう怒る気力もないといった様子でげんなりと緒方が呟き、樋山は2Aへと戻って授業準備を整えた。
もうすぐ夏休みが来る。それが過ぎれば緒方と話すようになって1年が経つ。
たった1年の片想いはつらくはなかった。彼との思い出がどんどん増えていく日常。幸せだった。
想いが返ってこなくてもいいと言ったら嘘になる、けれど……。
今は好きなのだ。
どうしようもなく、彼が好き。
夏休みはふたりでどこかへ行きたいなあと授業そっちのけで計画を練る樋山の頬を夏の風が優しく撫でていった。
おわり