図書委員の日常
きょろきょろしていると緒方とよく似た女性がこちらへ手を振っていて慌てて会釈する。
「朝早くに申し訳ありません」
「いいのよ、あの子もお友達が来て喜ぶわ」
「そうだといいんですけど……お邪魔します」
「お母さん! なんでこいつがここにいるの!」
聞き覚えのある声。樋山があまり聞きたくない声。
緒方怜司が眼鏡の奥からこちらを鋭く射抜いていた。
「怜、真の友達なんだからそんなこと言わない」
「こんな奴、友達じゃないよ!」
「それはあなたが決めることじゃないでしょう」
さすがに親の前では言葉遣いが綺麗になるらしいと現実逃避しつつ駅前で買ってきたケーキの箱を渡すタイミングを窺っていると視界の隅に懐かしい姿が映り込んだ。
「あ、真の部屋はあそこよ。入っていってね」
「えー、あー。勝手に入っていいんですか?」
「いいのいいの。あなたが来るって言ったら隠れちゃってね」
にこにこと笑う緒方のお母様に面食らいつつ、ケーキの箱を渡す。
「粗末なものですが」
「あー、気を遣わせちゃったのねごめんなさい。こんなことしなくていいのよ、いつでも遊びにいらっしゃいな」
「ありがとうございます」
「お母さん待ってよ真司の部屋は俺の部屋でもあるんだよ!」
「じゃああなた、リビングにいなさい」
「なんで!」
言ってみたい。おたくの息子さんに先日暴行を受けましたと言ってみたい。実際には言わなかったけれども。
「ごめんなさいね。この子、弟が大好きで。真が中学にあがってから家で樋山くんの話ばかりをするものだから怜ってば寂しかったのよね」
「誤解されるようなこと言わないで!」
「あら、事実でしょう」
まだまだ続きそうな親子のぷち攻防に一礼し廊下へ出て緒方の部屋をノック。
「樋山恭介です。入っていい?」
無言。躊躇っていると中で彼が動く気配がした。ドアが開く。
「入れ」
久々に見た彼はやつれていて、樋山は掛けようと思っていた言葉が吹き飛んでしまった。
背後で扉が閉まる。ついでに鍵も掛けていた。
「今は怜に入ってきてほしくないから」