図書委員の日常
「緒方は君に会いたくないと言った。俺らは彼のクラスメイト。彼の意思を尊重したい」
冷静に告げる亮介に掴みかかろうとして瑞樹に止められた。
「授業が始まる。戻るぞ」
瑞樹の声で、示し合わせたように4人で駆けだす。
三人の姿を見たくなかった樋山は必死で先頭を走った。
これが現実。ドラマの世界だったらサボってでも彼の教室まで駆けていくのに。
なんとかチャイムが鳴る前に2Aに飛び込み、ロッカーから教科書を出して授業準備。
すべてがだるかった。
午前中の授業のルーズリーフが机に載せられているのを見て瑞樹を盗み見たら呆れたように溜め息を吐かれて、腕時計を確認しようとすれば保健室に置きっぱなしなことを思い出してもう嫌になる。
瑞樹の号令で授業が始まっても上の空。午後の記憶もあまりない。
終礼が終わって向かう先は図書室。
背後で瑞樹が何かを叫んでいる。鞄を掴んで夢中で階段を駆け下り、図書室へ飛び込んで中から鍵を掛ける。
これでもう、誰も入れない。
瑞樹も、緒方も。
しんとした図書室。
恐怖感はなかった。
ただ彼の痕跡を感じたくて、いつもの場所へ行き、寝そべってみた。
「緒方」
小さく彼を呼ぶ。
俺は、どうすればいい?
どうしたら信じてもらえる? 君のことが好きだと。
どうしたらみんなで笑える?
自分だけを安全圏に置いておきながら言っていい台詞じゃない。
本を借りなくなったときから、彼は決めていたのかもしれない。
もう樋山を見限ることを。
図書室は彼ひとりの穏やかな場所であることを。
――じゃあ、どこで暴行を受けた。
起き上がり、膝を抱えて小さくなって考えた。
在室ノートに書かれていたのは昼。
授業開始後、すぐ。
じゃあ、暴行を受けたのはその前で、でも教室に戻るときは緒方と一緒だったから、緒方が図書室へ行き、樋山が来るまでのほんのわずかな時間。
そこまで考えて背筋が寒くなっていくのを感じた。
彼は昼ごはんを食べない。樋山が食べる時間は20分くらい。
それから30分を図書室で一緒に過ごし、教室へ戻る。