図書委員の日常
「先生、なんで緒方こんなに頻繁に来てるんですか」
「打撲」
それは見ればわかるけれども。不満そうなこちらの視線を鼻で笑い南は時計を指差した。
「時間だぞ」
「はーい……」
教室に帰る前に図書室へ寄ろう。
そこに鍵がかかっていたら、先日の分は彼の仕業ではない。かかっていなかったら、彼を待ち伏せさせてもらおう。
保健室を退室し、図書室の扉をそっと押したら開いた。
タイミングよくチャイムが鳴る。慌てて中へ体を滑り込ませ、カウンターに潜んだ。
怖いなんて言っている場合ではない。
静かな図書室でひとり彼を待つ。今日、鍵がかかっていなかったということは、昨日は彼に意図的に締め出されたのかもしれないということで、樋山は自身の気分が落ち込むのを感じていた。
とにかく彼に訊こう。締め出した理由、頻繁な保健室の利用、無視――。
ギィと扉の開く音がして驚きで心臓が跳ねあがる。
複数の足音が近づいてきて緊張してきた。緒方じゃない。
向こうからはカウンター内は見えないから大丈夫だとわかっていてもばれたらどうしようと思うと恐怖で手に汗が滲んでくる。
侵入者たちは何も話していない。気配が近づいてきて怖くて目を閉じた。少し震えていたかもしれない。
「恭介」
背後で溜め息混じりに呼ばれた名は自分のもの、そしてその声の主を樋山は知っていた。
「瑞樹」
「あ、恭みつかったー」
「よかったよかった」
腕組みしてこちらを見下ろす瑞樹と、姿は見えないが幼馴染ふたりの声に気が抜けてしまった。
「弁当届けてやろうと思って保健室に行ったら恭介がいなくて……焦った」
「瑞樹がさ、いきなり息を切らして飛び込んできたから何事かと思ったよ」
瑞樹は少し蒼褪めていて口を噤んでしまい、亮介が補足してくれる。
「……ごめん」
「いいよ。無事だったし」
あっさりしている亮介と、先程から周囲を警戒している寛樹の様子がちぐはぐで違和感を感じ、それを指摘しようとしたら瑞樹に腕を取られた。
「教室に戻ろう」
「嫌だ。緒方を待つ」