図書委員の日常
傍で誰かの気配がして、起き上がろうとして力が入らないことに気づく。
目を開けようとしても瞼が持ち上がらない。
「……っ」
動いたのがわかったのだろう。誰かが息を呑み気配が遠ざかる。
聴覚だけが研ぎ澄まされていて、その割にここは静かすぎて物足りない。
今は何時。ここはどこ。すっきりした頭で考えても仕方がないことを考える。
重い瞼を持ち上げれば天井が目に入る。ついでに、毛布がかかっていることに気づいた。
「保健室」
そうだ。瑞樹は保健室に連れていくと言った。
腕時計を見ようとしたら外されていた。寝てる間に体に傷がつかないようにと気をきかせてくれたのだろう。
なんとか体を動かし、仕切りを開いたら誰もいなかった。十一時五十分。あと二十分で午前中の授業が終わってしまう。
教室に戻るには養護教諭の在室証明書がいる。
せめて昼休みになる前に戻ってきてくれ、とひとりごちて在室ノートを見る。 入室時刻と退室時刻、学年クラス番号、教科、症状、処置を生徒が書き記していくノート。
樋山の分は瑞樹の几帳面な字で記してあり、あとは退室時刻を書くだけになっていた。
そういえばルーズリーフはどうなったんだろう。体がふらついたその瞬間まで握っていたはずなのに。
がらっと扉を開けて養護教諭の南が帰ってきた。
「お、目が覚めたか。ちょっと待ってろ」
デスクの引き出しから証明書を取り出し、在室ノートを見ながら書き込んでいた南はふと手を止めた。
「昼休みになるまでここいるか?」
「あー……。はい」
また、さらさらと手が動く。どうやら退室時間を書き加えているらしい。
「どうぞ。時間になったら持っていけ」
「はーい」
証明書を受け取り、手の中で弄ぶ。
「先生、俺をここに連れてきたやつ、何か言ってませんでしたか?」
「倒れたんでよろしくお願いします」
「そうじゃなくてー」
うまい言葉が見つからない。代わりに深く息を吐いた。
在室ノートを引き寄せ、彼の名をなぞる。ここ頻繁に記されている彼の名の横に記された症状は打撲。時間は昼。
緒方が樋山を無視してきたのは昨日。無関係だろうか。