図書委員の日常
苦笑して会釈を返したときにはもう彼はいなくなっていた。
「はい」
いきなり目の前にびっしり書き込まれたルーズリーフが差しだされて驚く。
「寝てただろ。それに今はノート貸したくない」
怒気を孕んだ瑞樹の声に怖くて顔を上げられない。
「なあ、恭介。俺が何に怒ってるかわかる?」
「ありがと」
言葉を無視して瑞樹からルーズリーフを奪い取り、席を立とうとすると阻まれた。
「恭介」
「俺、瑞樹だけは放っておいてくれると思ったのに」
「恭介、おかしいよ」
「うるさい」
中途半端な仮眠で脳が悲鳴を上げている。
瑞樹を突き飛ばそうとして自分の体が傾くのを、どこか冷めた自分が見ていた
ばたんと机が転がる。体もなんだか痛い気がする。
誰かに抱き起こされているが目が開けられないので気配しかわからない。
「恭介!?」
「ちょ、瑞樹なにしたの」
「誰か先生呼んできて!」
「必要ない」
うるさい友人たちの声の中で、瑞樹の声だけが明瞭に届く。
「俺は級長だ。今から恭介を保健室に連れていく」
背負われ、黒板に何か書き込む音、扉の開く音、教室とは違う空気。
「瑞樹、ごめんな」
とりあえずそれだけを呟いて樋山は意識を手放した。
おわり