図書室の主 | ナノ

図書委員の日常

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 放課後の図書室も開かなかった。 彼の下足箱を確認したら、外靴が残っていて、もしかして昼も内側から鍵を掛けられていたのかもしれないと思い当たる。

 これ以上、傷ついたら立ち直れなくなりそうで自分を守るために真っ直ぐに帰った。

 バスに乗り霞みそうになる思考の中、必死でここ数日の彼との会話を思い返すが身に覚えがない。

 帰宅して真っ先に、震える指で彼にメールを打つ。


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To:緒方
Subject:
夏休み、一緒に遊ぼうよ。
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 数学の問題集を片手に、樋山は一晩待った。

 返事はなかった。それが彼の答えなのだろう。

 ケータイ片手に笑いが止まらなかった。眦を零れるものを拭い、笑い続けた。

 昨日言ったことが本当になってしまったな、なんて思いつつ寝不足なまま学校へ向かう。

 樋山の隈を見て幼馴染の瑞樹はぎょっとしたように目を見開いた。

 大丈夫だからと軽く手を振れば何か言いたげな顔をして、でも結局何も言わずに溜め息をひとつ落としていった。
 疲れている樋山にとって何も言わずにいてくれるのはありがたい。

 なのに、空気を読まない友人たちがわらわらと群がってくる。


「恭介、どうしたの?」

「大丈夫?」

「あー、いやさすがに2日間の貫徹はつらいな」


 口を開くのもだるいというのに、友人たちは樋山の周りできゃいきゃい何か言って頭に響き苛立ちが増す。

 友達なら、黙ってろよ。普段と違う様子にも気づけないのか。

 直接は言えない言葉をそっと溜め息に託して、眠いから放っておいてと告げ机に突っ伏した。

 幼いから同じ環境。

 足の引っ張り合い、出る杭は打たれる。みんな横並びの世界。

 個性なんてものは埋没し、画一的な人間の出来上がり。

 緒方に惹かれたのは、今まで周りにいた人間と色が違ったからだと思っている。

 彼の紡ぐ言葉の意味が自分と異なることなんてとっくに気がついていた。
 ただ、うわべだけでも彼の言葉が欲しくて感情にそっと蓋をして甘えた。

 ――『好き』、その意味をきちんと伝えた先の未来が思い描けない。

 気持ち悪い? それとも、戸惑いながらも応えてくれる?

 いつの間にか眠っていたらしい。

 授業終了のチャイムで目が覚め、瑞樹の号令で起立したときに目が合った数学の先生がパチッとウィンクを寄越してきた。

 中1のとき樋山の担任だったから、樋山が真面目なことは知ってる。1回なら見逃してやるといったところか。



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