図書委員の日常
図書室の扉が開かない。
そんな日もあるだろうと思いつつとぼとぼと教室への階段を上り未練がましく2Cの教室を覗けば彼がいない。
「緒方? あれ、恭のところじゃないの?」
寛樹と亮介が一緒に弁当を食べていたから教室に入り込んで亮介に訊くと、寛樹が首を傾げて続けた。
「恭介の顔が見たくなくなったんじゃない?」
あんまりと言えばあんまりな言葉にどう返事していいかわからず戸惑っていたら、亮介が寛樹を軽く叩き樋山に向き直った。
「ヒロ、黙って。――そんな日もあるよ。ゆっくりと待てばいい」
穏やかだが何かを隠しているような響き。口を割らないとわかっていても訊ねようとしたそのとき予鈴が鳴ってしまった。
教室の扉が開き、入ってきた彼と目が合ったのち逸らされた。
緒方は目が悪いくせに授業中以外は眼鏡を掛けない。至近距離ですれ違っても滅多に気づかない。
だから目が合うこと自体珍しいし、いつも樋山から声を掛けるのだけど、今日はどこか違った。
あえて樋山を無視しているような。
「緒方、っ」
「恭介、帰りな」
彼の迫力に圧されて、彼がすぐ傍を通り過ぎてもぼーっとしたままで慌ててその背を追おうとしたら亮介に止められ教室の外に追い出された。
初めて彼から悪意を感じた。ショックで、2Cの扉の前から動けない。
授業開始のチャイムが鳴っても「邪魔だよ」と寛樹に追い返されるまで立ち尽くしていた。
教室に戻ればまだ教師は来ていなくて、友人たちが不安そうに樋山の様子を窺っている。
遠回しな心配と、隠し切れていない好奇心に苛立ちながらも樋山は笑った。
「あーもうみんなごめんねー。ちょい寝不足なんだ」
少し赤い瞳を指差し笑えば近づいてきた瑞樹がそっと背中を擦ってくれて、漏れそうになる嗚咽を喉の奥で噛み殺した。
おわり