図書室の主 | ナノ

図書委員の日常

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 本当は、試験期間中だって図書室へ行きたい。

 けれど中1の10月、彼がそれを禁止した。

 思えば、好きの意味を訊こうとした日にそれを言われ、次にあったのは3週間後。タイミングを逸してしまったのだ。


「俺らはなんのために学校へ行っているんだ? しかも私立だぞ、義務教育なのに。親に申し訳が立たん」


 きっぱりと言い切った彼は誰が見ても惚れ惚れするほど男前で、いくら彼の頼みといえど聞きたくなかったのにいつのまにか頷いていた。

 あのときはなぜか廊下ですれ違うこともなくて緒方不足で参ってしまいそうだった。

 でも今回はメアドがある。いつでもメールができる。

 そう思って帰宅後すぐさまケータイを開くと彼から受信。胸が高鳴るのもどうしようもないと言えるだろう。すぐに開きたいのを我慢し彼のアドレスを登録、ついでに個人着信音とランプも設定。

 そわそわしながら彼からのメールを開く。


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From:緒方
Subject:
テスト期間中はテストに集中すること。
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 なんとも彼らしい文だが、そんなに信用されてないかとがっくりきた。

 初メールがこれ。――これ!

 確かに邪な気持ちを抱いてないと言ったら嘘になるけど、『今、なにしてる?』に憧れたことがないと言ったら嘘になるけど! もう樋山は涙目だ。

 まあ恋人同士ではないし、と心の中で呟くが恋人になってもこんな感じがすると思わせる彼はすごい。

 結局テスト期間中に交換したアドレスが役に立つことはなかった。

 いや、少なくとも樋山の役には立った。試験勉強から逃げ出したくなったとき彼のアドレスを眺めてにやにやする。それだけだ。なんと不毛な使い方。

 もうすぐ7月、梅雨も明けるし晴れやかな気分になるかと言えばそうでもない。すぐに1学期末の試験が迫っている。
 
 中間試験最終日は3限で終わる。解放感と緒方に会える喜びで朝から樋山は上の空だった。
 
 もちろん試験はばっちりだ。でないと彼に嫌われてしまうし、なにより来年同じクラスになるチャンスを自分から潰したくはない。

 廊下のさざめきから2Cの終礼が終わったことがわかる。


「おーい、こっちも終礼やって帰ろう!」


 教室のあちらこちらで談笑しているクラスメイト達に呼びかければ、みんなさっと席につく。

 さあ級長早くしろと睨みつければ、級長の瑞樹は諦め顔で天を仰ぎ号令をかけた。


おわり


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