図書委員の日常
待ちに待った昼休み。
昼ごはんを一緒に食べている友人たちに断り廊下へ出ると幼馴染の亮介に呼び止められた。
「最近、インテリらしいじゃん」
「まあね」
中学になってクラスが分かれてしまった上に夏から緒方にべったりだったためこんな小さな会話でさえ久しぶり。
しかし懐かしんでいる余裕はない。軽く笑って流したつもりだったが、お互い目が笑ってないことはわかっていて、亮介が目線で指し示した場所へさりげなく向かう。
行きついたのは階段の踊り場。
昼休みが始まってまだ10分。誰もいないことはわかっているが、亮介は注意深く確認して口を開いた。それでも声を抑えているのがこいつらしいと感心する。
「恭介、気をつけろよ。噂になってる」
何が、なんて野暮なことはどちらも言わない。
分かりきっているからだ。
茶化そうかと思ってやめた。
幼小中高併設するこの夏扇学園なら進学するだけで幼馴染になってしまうけれど、亮介は本当に樋山の幼馴染だった。
心配してくれているのがわかって、顔が綻ぶ。
「大丈夫だよ、亮介が心配するようなことは何もない」
「そうか。いや、最初にヒロが気づいたんだけどね。他のクラスはまだだとさ。こっちは瑞樹だけど」
他の幼馴染の名が出ても驚かない。その代わり、他のクラスに漏れていないということに驚いた。
閉鎖的な男子校。
この類の噂は、中学に入学して間もない不安定な内部生の間ですぐに駆けまわるはずなのに。
「さんきゅ」
にっこり笑った亮介の顔は明らかに楽しんでいて、溜め息が出た。
「恭介」
「ん?」
「少なくとも中3は同じクラスになろうぜ。そしたらこんな噂、蹴散らせる」
その言葉の意味するところはひとつ。
まったく自信家なところは変わらないと苦笑してしまう。
「ああ。心配するな」
習熟度別のクラス編成になるから、応用に入ろうというお誘い。
幼い頃から一緒にいたから、だいたい幼馴染たちがどれくらいの成績かは見当がつく。おまけに内部生の情報網はお互いの足の引っ張り合うために凄まじい。
「なあ、亮介。どうやって噂を止めたの?」