図書室の主 | ナノ

I'll be with you.

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 一晩中、真司は悩み抜き決断を下す。
 翌日昼、実家に戻り両親に話したら「あなたが決めたことなら」と言って喜んでくれた。
彼女にメールを打ち、家まで会いに行った。
「結婚を前提に、私とお付き合いしていただけませんか」
 彼女の両親とも会った。戸惑っている。それはそうだろう。今時、結婚は四十前後でもおかしくないのに。しかも、昨日知り合った男。
「よろしくお願いします」という返事を聞いたときは幻聴かと思った。
 あいつのことを想って、全身が冷えた。
 彼女が傍にいる限り、真司があいつのことを忘れることはない。
 それが、一生の枷となる。
 家に帰るとどっと疲れが押し寄せてくる。
 先週はふたりで過ごしたベッド。あいつの残り香なんてないはずなのに、あいつを感じてしまうのは後ろめたいからだ。
 ふと思い立って、ケータイを手に取る。
『……真司?』
 無視されるかもしれないと覚悟していたのに、声を聞くと涙が零れた。
 ああ、好きだ。
「俺、結婚する」
 ふいに告げた一言、息を呑む気配がした。
『……そっか。おめでとう』
 沈黙。なんで。やっぱり、俺が縛り付けていた? 安心してる?
『おめでとう、真司』
 かつて優しく包み込んでくれた声は、何度も聞きたくない言葉を紡ぐ。
「お前……っ、いいのかよ、このまま俺が結婚しても」
『真司』
 理不尽な怒りにあいつが苦笑する気配がした。笑いを収め、こちらへ伝わるのはあいつの真剣な想いだった。
『俺は真司が大好き。たぶん、ずっと愛してるし、この先、俺に他に大切な人ができたとしても、一生、真司を忘れることはないよ』
「なら、なんで……っ」
『俺は真司に幸せになってもらいたいの』
 馬鹿だ。何がって、独り善がりな俺自身が。
「一緒に生きてって言ったくせに……」
『真司。愛してるよ。招待状、ちゃんと送ってね』
 通話が切れた。
 気を失うまで、真司は泣き続けた。



 ホストクラブのスタッフルームで、真司から届いた招待状を握りしめ樋山は内から湧き上がる感情を殺していた。
 あの日以来、真司の声を聞いていない。あれ以上、真司の声を聞き続けると気が狂いそうで、恭介は一方的に通話を切った。
 タイミングがいいのか悪いのか今日は表に出る日、気も紛れると思ったのに。
「まったく、緒方の花婿姿を見ることになるとは思わなかったよ」


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