本編
放課後の保健室で、滞在記録を見せてもらった。
保健室に来た子がサボりではないことを証明するために自分で書き込むノート。
日付、学年クラス、名前、症状、処置、滞在時間――。
一週間前から、彼の名前があった。
滞在時間は昼休みちょうど。
最初の症状は、打撲。それからは今日まで「サボり」と書いてある。彼らしいな、なんて笑う余裕はなかった。
震えそうになる体を押さえ養護教諭の南に訊ねる。
「せんせ、緒方、打撲だったんですか?」
「緒方? あー、2Bの? そ、打撲」
「なんで、毎日来てるんですか?」
睨まれたけれど、ここで引けない。180以上の長身を負けじと睨み返し、腹に力を込める。
「彼は俺の友人です。なんで毎日来てるんですか」
「……本人に訊けば。私から言う気はないね」
低音から、しぐさから、拒絶がはっきりと見て取れる。目を伏せて、悔しいけど謝った。
「失礼しました」
「樋山」
諦めて保健室を去ろうとしたら呼びとめられた。
「友達なんだろ。いいのか、これで」
返事したくなくて、保健室を飛び出した。逃げてばっかりだけれど、どうしようもない。向き合いたくなかった。
辿りついた先は図書室。
「――いない」
電気のついていない、ふたりだけのものだった空間。
誰もいない、図書室。
「緒方!」
なぜだか、無性に焦りが込み上げてくる。
「緒方!」
返事はない。当たり前だ、彼はここにいない。
それでも彼を探した。
「緒方!」
「どこだ!」
「緒方!」
返事は、ないというのに。
おわり。