図書室の主 | ナノ

Honest rights

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 引き攣った笑みを浮かべたまま身動きしない柚葉を視界の隅に収め、瑞樹は恭介へと意識を集中した。



 ケータイがメールを受信した音で秋一は目を覚ました。午前四時。非常識にも程がある。幸い、隣で寝ている緒方は起こさずに済んだらしい。
 いったい誰だとケータイを開くと、知らないアドレスから送られてきたメールに、添付されていた動画ファイル。怪しいことこの上ない。
 変なウイルスが付いてないといいが、と思いながらそっと寝室を後にし、リビングのソファに座って再生する。
「瑞樹……? いや、柚葉……?」
 映像が荒くて、情けないことにどちらかがわからない。まずいと思いながらも停止ボタンを押すことができずにいるとアングルが変わり、もう一人が映し出された。
「……ココ」
 何をやっているかなんて一目瞭然で、秋一にとっては瑞樹か柚葉が誰かと行為に及ぼうが関係ない。
 ただし、ココは別だ。大切な友人の、恋人。ココ本人だって、今ではかけがえのない人だ。
 スピーカーから漏れる喘ぎ声も、延々と忌まわしい映像を垂れ流すディスプレイも、秋一の中へは入ってこない。
「どういうことだ……?」
 寝室に目を遣っても扉に阻まれ、緒方の姿は見えない。ベッドサイドで彼を起こそうと揺さぶり、しかし本格的に起こすことはしなかった。
 深い眠りの底にいる緒方の寝顔を指で辿ると言いようのない怒りで吐き気がしてくる。
「緒方」
 お前は、何も知らなくていい。
 せめてお前は、幸せになれ。
 これは僕の独り善がり、偽善だとわかってはいるけれど。



 秋一が何かを言った気がして、ふと目を開くとこちらを覗きこむ秋一と目が合った。
「岸本秋一」
 お前が、そんな顔をしなくていいんだ。
 そう言おうとして、喉が渇いて声が出ないことに気づき、なんとももどかしい。
 起きたら言おうと、真司は目を閉じ、そして次に起きたときはさっぱり忘れていた。
 顔を洗い、髭を剃り、朝食を作ろうとしたとき、玄関の内鍵が閉まる音がした。
「おはよう、真司」
 にっこりと笑い、こちらへ手を伸ばすあいつを無視してキッチンに立つと後ろから抱きついてくる。
「……おはよう」
 顔を見ることなく挨拶を返し、いつ秋一が起きてくるかと思うと気が気ではない。そんな真司の心中を余所に、あいつはいつになくべったり甘えてくる。
「なあ、お前、何かあったのか?」
「ん? ああ、久々の実家で真司不足を自覚しちゃってね」


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