図書室の主 | ナノ

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 真司の家のリビングで、真司と秋一はぼんやりと突っ立っていた。
 数年ぶりに再会した友人は黙っているだけなのに凄味を増していた。人を寄せ付けない雰囲気は真司も持っているが、現在の秋一には負ける。
「手紙を、ありがとう」
 ぼそりと秋一の発した言葉で真司は我に返り、頷く。
 毎年、年賀状を送らない代わりにバースデーカードを送っていた。
「誕生日、おめでとう」
 忘れないうちにと言うものの、互いに口下手なので会話が続かない。苦笑いしながらちょこまかと動き回るあいつを睨みつけ、どうしたものかと途方に暮れたとき夕食の準備が整った。
「食後のデザートは期待していいからね」
 ジュースで乾杯の後、黙々と食べる真司たちへあいつが言い、秋一は微かに口元を綻ばせた。
 冷蔵庫に入っている「デザート」どころか食事になりうる量の代物を思い出した真司は失せていこうとする食欲を奮い立たせ口を動かす。
「岸本秋一は、表では働かないのか」
「ああ。僕は気が利かないからな」
 ふと思い立って訊くと、さらりと返事がくる。見た目でいうならあいつよりも秋一の方が人を魅了するのに、とらしくもないことを考えていると、秋一が更に続けた。
「瑞樹が反対したんだ。もうやっても怒らないと思うんだが」
 淡々と事実として話す秋一だが、言葉通りにとってはいけないことも知っている。みんな、馬鹿で不器用だ。あいつも真司も瑞樹も秋一も。
 会話がないせいかあっと言う間に食事が終わり、あいつがパフェを運んでくる。目を輝かせた秋一とげんなりと溜め息を吐く真司の様子がおかしかったのかあいつがくすりと笑った。
「おい、岸本秋一。本当に食後にそれを食うのか。吐くぞ?」
「別腹」
 秋一がスプーンを構えるのをあいつが写真に収めている。
 スポンジ、生クリーム、アイス、チョコ、コーン、ゼリー、フルーツポンチ、とにかくなんでもありで、真司は見ているだけで胸焼けがしてきた。
 真司にはクッキーを用意してくれていたので、それを摘んでアイスに突き刺してやる。
「で、なんでパフェなんだ」
「手っ取り早い糖分摂取。腹にも溜まるから食事をしなくていい。一石二鳥だ。ココ、ありがとう。おいしい」
 嬉々として山を崩していく秋一が人間に思えない。じっとスプーンを見つめていると、「なんだ、緒方も食いたかったのか」と恐ろしいことを言って秋一が生クリームを掬ってこちらへ差し出してきた。
「いや、俺は」
「ココの作ってくれたものだ。うまいぞ? ほら、口開けろ」
「うわあああああ、待って、秋一、俺だって真司に“あーん”なんてしたことないのに!」
 騒ぐあいつがうるさいので、食べてみた。なにやらがっくりと膝を落とした気配がするが気のせいだと思う。
「んー……。甘すぎないか?」
「慣れるとこれくらいじゃ物足りなくなる。今度、食いに行かないか? 時間、前よりあるだろ?」
「甘さ控えめなら……」
 常になく明るい秋一。新たに知った友人の一面に驚き、つい頷いてしまった。「ほら、ここなら緒方だって食べられるだろう」と差し出された方を口に含もうとしたら、あいつがスプーンを持ってきた。


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