図書室の主 | ナノ

Platonic days

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 男前に言い切った彼を見つめ、ふと、時が逆流する錯覚に襲われた。
 学生時代、彼は言った。「くれてやる」と。恭介はずっと、その言葉に甘えていたのかもしれない。
「なあ、恭介……」
 パジャマをはだけさせたまま、彼が起き上がり優しく笑う。
「俺は、初めてだから。痛くてもいいから、優しくする努力はしろ。途中で、やめるな」
 恭介を抱き締め、彼は耳元で囁く。――「ずっと、待ってた」。
 自分がたまらなく情けなく感じて、恭介は左手で口を覆った。ここで泣くのは卑怯だ。
 呼吸を整えて彼を押し倒し、顔の横に手を着くと彼と目が合う。
「真司」
 緊張しすぎて、声が震える。
 もっと、きちんと整理したかった。恭介の我儘で、こんな形にしてしまった。
 いろんな理由をつけて綺麗事で片付けようとして、彼も瑞樹も秋一も亮介も寛樹も傷つけた。それでも恭介は我が身が一番かわいいし、幸せになりたい。
 真司が好き。愛してる。
 まだ覚悟を決まってない。でも、ずっと昔から真司が欲しくて、今、この瞬間、本当に真司が欲しい。
 真司に目に見える幸せをあげられない。結婚も、子どもも、諦めなくちゃいけない。
 別れようって思ってた。付き合った直後から。女性を抱いたし、瑞樹と亮介に抱かれた。いろんな人を傷つけてきた。
 真司を手放すために、なんて綺麗事だった。
 自分が、明確な幸せが欲しかっただけ。すごく不安。この関係の未来を、思い描くことができない。
 いろいろ考えた。でも、真司が欲しい。
 真司を、愛してる。
 憶えているだろうか。初めて、真司が恭介を認識してくれた日。
 恭介は憶えている。――すごく、嬉しかった。
 中一で恋なんて、今では笑ってしまうけど。「緒方」って呼ぶだけで、すごく幸せな気分になれた。
 今では、傍にいるだけで、幸せだ。名前を呼んだり、遠くで「今、何してるかなあ」ってふとしたときに考えてしまうのは、恭介には真司だけ。
「真司」
 渦巻く想いを彼の名に押し留めて、彼の茶色い瞳を見つめた。
「聞いて、ください」



 真司。真司。
 俺は、覚悟を決められないけど。
 幸せの形なんてわからないけど。
 俺と、一緒に生きてください。



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