図書室の主 | ナノ

Platonic days

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 そんな言葉を吐いた柚葉に手を振り、恭介は曖昧に頷いた。
「今日はもう、あがるよ」
 上の空でふたりに告げ、帰路を急ぐ。
 付き合うときに、真司を手放すと決めた。抱いたら手放せなくなると思って、清い関係を続けた。一方で、瑞樹と亮介に抱かれた。自分は、汚い。たまらなく、自己中心的。
 司法試験に合格したのに、合格証書をもらうまではわからない、と頑なに祝いを拒んだ彼は合格が通知されて以来まともに眠っていない。
 先程、恭介はコンビニで市販の風邪薬を買った。
 もういっそ、ふたりで死んでしまおうか、なんて馬鹿げた考えが脳裏を過ぎる。
 我慢できない。どうなってもいいから、彼の体が欲しい。
 午前三時。彼はまだ起きてくれているに違いない。心優しい彼はいつも寝たふりをしているけれど。
「真司。ただいま」
「……おかえり」
 耳元で囁くと、まあるく開かれる彼の瞳。掠れた声を紡ぐ唇に、柚葉の体で熱が上がったせいかたまらなく欲情してしまう。
「真司、俺と死んでくれる?」
「断る」
 目の前に包みを差しだすと間髪入れずに返ってくる答え。彼のこういうところが好きだと恭介はひとり笑う。
「じゃあさ」
 一錠、口に含み彼に口づけた。普通の風邪薬。きっと眠くなるはず。死には、至らない。
「君は少しだけ、眠ってて」
 わかってて抵抗しない真司の口腔に舌を挿しいれたら溶けだして苦い。一旦口を離し、もう一錠、彼に放り込む。
 恭介を待っている間に夢と現を彷徨っていたらしい彼の体を弛緩しているらしく動きが遅い。
「お風呂、入ってくるね」
 とろとろと眠りに落ちかけている彼に告げ、カラスの行水。時間を置かなくてはいけないとわかっているのに気持ちばかりが焦る。
 風呂から上がると、彼は揺すっても起きなかった。
「真司……」
 落ち着け。いつも自分がされていることを彼にするだけだ。自身に言い聞かせながら、恭介は真司のパジャマのボタンを外していく。
 鎖骨にキスマークをつけようとして、つけたこともつけられたこともないことに気づく。試しに噛みついたら彼が呻き声を上げて痛そうだったのでやめた。
 彼をうつ伏せにしてキッチンからビニル手袋を持ってきて嵌め、商売道具とは別のローションを垂らす。瑞樹はいつも、一時間半を掛けて恭介を慣らしていく。今から彼にその作業を施すとしたら、その間に空は白み始め、彼は起きてしまうかもしれない。
「知ったことじゃない」
 呟いて、彼の中に指を入れようとしたそのとき。
「馬鹿が」
 一番、聞きたくなかった声がした。頬杖をついた彼が、振り向きざまに恭介を睨んでいた。
「お前は、俺の体がないと不安なのか?」
 彼が目を閉じ溜め息を吐くのを、恭介は絶望的な気分で見つめていた。
「俺は、いつだってお前のものだ。こんな小細工しなくても――くれてやる」


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