図書室の主 | ナノ

Platonic days

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「私、何も聞いてないから。あ、瑞樹、使ったら感想教えて。使い心地がよかったら、また作ってあげる」
「あ、ああ……。ありがとう」
 ぎこちなく笑い、背を向けた妹を放心して見送っていると、いつの間にか立ち上がった柚葉も項垂れていた。
「梓紗に嫌われたら、どうしてくれるの」
「それ、俺の台詞」
 ぼそりと呟いたら柚葉が食いついてきた。身も蓋もない言い方だが、最愛の人に嫌われるのと、常に共に暮らす家族に嫌われるのとでは生活への支障が全く違う。
 瑞樹と真司の浮気騒動から約ひと月。あちらが平穏なことを願って、恭介にメールしよう。
 秋一の誕生日は、もう、この弟に譲るべきなのかもしれない。



 隣で皿洗いしているユズは元気がない。ココがケータイを開くのをびくびくしながら見ている。
 それらを横目に、秋一は自分の誕生日のことを考えていた。九月二十九日。期待してはいけないと思いつつ、祝ってくれたら瑞樹のことも祝わなくてはいけない、とも考える。
「瑞樹から。“電話していい?”だってさー。柚葉、俺がシフトって話してくれなかったの?」
「別に。俺だっていつも兄貴としゃべるわけじゃない」
「あーあ。にいちゃんにいちゃんって瑞樹の後をついてまわってたあのかわいい柚葉が恋しいよ」
「二十年以上前の話すんな」
 ココとユズの会話も耳を素通り、上の空。
 瑞樹の誕生日は、十二月二十六日。「二かける六は十二。憶えやすいでしょう」と言って笑っていた。
 昨年は、「親友だから」と言って、バケツみたいな大きさのジョッキのパフェを食べた。付き合っているとき、雑誌を見ながら「来年の誕生日はこれを食べたい」と言ったのを憶えてくれていたらしい。
 その前は、ふたりが恋人だったときは。
「……っ」
 喉の奥で声を殺すのには慣れた。刻み込まれた思い出に縋りたくなったときは、大きく息を吐く。それしかない。
 秋一は泣かない。恋人であった瑞樹が、あの瞬間、秋一の一生分まで泣いてしまったから。
「秋一センパイ。俺と、今度の週末一緒に過ごしてくれない?」
 ユズの声で現実に引き戻された。心配そうなココの視線を感じる。
 秋一の躊躇を見抜いたように、ユズが目を伏せた。秋一が沈黙を守ると、ユズは思いきったように続けてくる。
「兄貴のこと、待ってんの?」
「……ああ」
 瑞樹と恋人だったときの誕生日は。
 一日中、愛されてると思った。
 自分が選んだ人間が、自分を捨てるはずないと固く信じていた。
「秋一センパイ。肉体関係なしでいいから。俺と、付き合って」
「……それ、は」
「柚葉」
 ココが静かに窘めるが、ユズはココを鋭く睨む。

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