図書室の主 | ナノ

Platonic days

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 試験が終わって四ヶ月、あいつは真司の家に留まってくれている。この環境に慣れないようにしなくては。己を戒めつつも緩む頬は如何ともし難い。
「おはよう、真司」
「おはよう」
 新婚みたいだ、という自分の発想に照れてあいつの顔を見ることができない。
 ふたりで食卓につき、黙々と食べていく。目が合った瞬間、ふわりとあいつが笑った。
「……にやにやして気持ち悪い」
「ごめんごめん。だけど、もっと気持ち悪いこと考えてるよ」
「そうか」
「訊いてくれないの?」
「話したいなら勝手に話せ」
 ぶっきらぼうな真司の言葉にも動じることなく受け入れてくれるあいつは本当に人間ができてると思う。「怒らないでね」と前置きしたあいつは箸を置いて真司の頬を摘んだ。
「俺さ」
「ん」
「真司のお嫁さんみたいだなあって思った」
「……っ!」
「呆れた?」
 そのとき、自分の胸の奥に生まれた感情に真司は泣きたくなった。
「同じだ」
 隙のないあいつのきょとんとした顔に笑おうと思って、笑えなかった。唇が震えて、上手く言葉にならない。
「俺も、同じことを考えてた」
「真司。真司、ごめん、泣かないで」
「お前と、一緒にいたい」
 感情が昂り、泣きたいわけではないのに涙が零れる。
 覚悟を決めてほしい。ずっと、待ち続けているのだ。苦しい。この前の行動をあいつに責められなかったことも後ろめたさを増幅させた。
「真司、秋一に会った?」
 ふと、あいつが言った。瞬時に瑞樹のことを責められてるのだと思ってしまい、余計に涙が止まらない。
「真司、違うんだって。参ったなあ。本当に知らないんだ……? あのね、君が考えているようなことじゃない。その、うまく言えないんだけど。この前のあれはね、瑞樹は浮気じゃないから。それに、俺だって真司に対して不誠実を働いているから、真司が負担に思うようなことは何一つない」
 混乱した頭ではあいつが何を言っているかさっぱりわからない。あいつが真司の涙を拭った。ソファに移動したあいつがぽんぽんと隣を叩くのでそこに腰かけた。
「秋一と瑞樹は、別れたの。二年以上前に」
「そんな馬鹿な」と言いかけて、あいつの真剣な瞳に押し黙る。考えてみればここ数年、互いにとっての数少ない友人に会っていない。
「本当に、知らなかったんだね」
「ああ……。で? 恭介も俺と別れたいのか?」
 投げやりな気分で問うと「うん」と言われて耳を疑う。まじまじとあいつを見つめても冗談のような雰囲気ではない。
「俺、真司の相手に疲れちゃった。優しくて、甘やかしてくれる瑞樹と一緒にいたくなっちゃってさ」


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