図書室の主 | ナノ

Platonic days

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 痛いばかりの情交を終えて、ふたりで楽しいことばかりを語った。それは幼き日の思い出だったり、今ここにいない幼馴染のことであったり、互いの恋人のことであったり。
『俺は一生、真司を抱かない。で、いつか真司に捨ててもらうよ』
『俺は、六年だけ付き合う。徹底的に甘やかして、思い出を増やして俺を刻み込んで、別れる』
 これからのデートの予定、恋人の自慢、期限までにしたいことを話して、その先の未来を考えないように笑い続けた。
 秋一と共に過ごしているときの瑞樹は幸せそうで、人に関心のない真司でさえ嬉しそうにしていた。一方で彼への浅ましい欲を逸らすために、瑞樹と逢瀬を重ね、いつの間にか瑞樹だけ別れを迎えた。
 あの日、瑞樹はこれまでになく丁寧に恭介を抱いた。
 最中は、恋人の名を呼ぶ。幼馴染の名は呼ばない。暗黙のルールは別れた後も守られている。
『月に一回会う約束って、最低』
『だって、それくらいしないと秋一はぼろぼろになるでしょう。よくも悪くも秋一には俺しかいないんだから』
『自惚れすぎ。秋一と真司は仲がいい』
『そのことなんだけど』
 気まずそうに瑞樹が告げた言葉に恭介は絶句した。
『なんで……真司に惚れたなんて馬鹿なことを……』
『一番、傷が深い方法を取った』
『最低』
『俺は、秋一が好きなの』
『知ってるよ』
 以前、恭介が瑞樹へ無理矢理「抱け」と迫った時には放置したくせに、今では戯れに唇を重ねる関係。彼への罪悪感はない。いつからかは忘れてしまったけれど、彼を抱くよりましだと開き直ってしまった。
 彼の寝顔に口づけ、恭介はひとり溜め息を吐く。
 どこで、ばれてしまったんだろう。
『お前が岸本瑞樹たちに抱かれてることも聞いた!』
 彼の悲痛な叫びが恭介の胃を焼いていく。
「真司。俺は、愛してる」
 だから俺を捨ててください。
 言えるはずのない言葉を飲み込み、これからのことを考えた。なにしろ、ひと月近くをこの家で過ごすことになるのだ。
 まず、着替えを取ってくる。食糧を確認して、場合によっては買い出し。食費、水道代や電気代はここを出ていくときに置いていけばいいだろう。
「恭介」
 真司がぱっちりと目を開く。恭介は安心させるように笑った。
「大丈夫。ここにいるよ。俺はここにいる。どこにも行かない」
「俺は、お前が好きなんだ」
「俺も。愛してるよ」
 この男を裏切り続けるのだ。愛故に? 自分かわいさで、なんてとっくに知ってる。



 あいつのいる日常が幸せすぎて怖いと、朝食を見ながら真司は思った。


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