図書室の主 | ナノ

本編

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 今日も彼に告白し抱きつき肩越しに本を読む。

 気づけばもう6月の半ば。一月後には彼との関係が変わってしまうかもしれない。

 気持ちは変わらない。むしろ、ますます募っていく。

 最近では好き、と口にするたびに満たされていくような空っぽになるような不思議な感覚に襲われていた。

 腕が疲れたので、移動し彼を背もたれに天井を眺めた。

 夏が来れば彼とお互いを認識して一年だというのに、その前の彼を惚れされるタイムリミットが気になって友人として一緒に遊びに行く計画すらできていない。

 背中越しの体温が心地よくて今の関係を表しているようで泣きたくなってくる。

 もぞ、と背中が動いたので振り返るとこちらを見つめている彼と視線がかちあう。


「緒方、好き」


 半ば口癖となりつつある告白。

 ところがいつもの、知ってる、とか、俺も、とかが返ってこない。

 どこか困惑したような表情だった。


「……緒方?」


 どこかおかしい。ぼんやりとして、樋山を見ているようで見ていない。

 不安になってきたので彼の手を握ってみたが握り返されることもない。

 ふいと視線を逸らされ、彼が立ちあがり棚に本を戻す。


「緒方」
「樋山」


 彼は振り返らない。遮るように呼ばれ体が強張った。


「俺が、好きか?」


 何を今更と言いたいのを呑みこんで目を閉じた。

 緊張してくる。

 試されているわけじゃないと思う。何かの確認のような感じがした。彼の声がひどく真剣だったから。


「――好き。すごく好き」
「そうか」


 溜め息を吐くような息の中に、囁くように彼の後姿へ告げる。

 微かに彼が笑った気配がして、こちらを振り返った。

 いつになく真剣な目だった。


「俺は、嫌いだよ樋山」


 その言葉は、静かに樋山の耳に届いた。

 脳が冷静に認識して、気がつけば頷いていた。


「わかったよ、緒方。ありがとう」


 笑みさえ零れて、図書室を去る。

 チャイムも、扉の閉まる音も、聞こえなかった。


おわり。


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