本編
昼休み、図書室に行こうといつものように席を立ったら幼稚園時代からの友人に止められた。
「恭介お前、最近ホモって噂立ってるよ」
「だからどうした。俺はね、緒方と友達なの。本を読むようになって、実際賢くなった気がするし。なんて言われようと構わないよ。君も来る?」
動揺なんかしない。にっこり笑うと、彼はそうか、と一言頷きあっさり引いた。
心配してくれているんだと思う。樋山含め、内部生は学内の情報に詳しい。すでに二人、外部生がいじめにより去っていった。
内部生同士のいじめが始まるのもこの時期であり、自然と空気がぴりぴりしてくるのは馬鹿馬鹿しいと思うが仕方がない。
図書室の扉を開くと風が一気に吹き抜けていった。
「緒方、好き」
集中して読んでいる彼に、そっと呟く。邪魔をしないように彼にかじりついて本を覗き込んだ。
ぱらり、と紙を捲る音、密着した場所から伝わる鼓動に今が幸せだと頬が緩む。
自分がホモと言われ苛められても、味方してくれるであろう友人たちの顔が浮かんだ。
でも、緒方には自分しかいないのだ。
「俺、自分の身も守るけど、緒方のことも守るから」
そっと旋毛にキスを落としたあと、無性に恥ずかしくなって彼の肩に顔を埋める。
一番大切な人に拒絶されていない、それだけで十分じゃないか。
あとはどうやってこの恋を隠しつつ発展させていくか。
「緒方、好きだよ。すごく好き」
両想いになったとする。
そこからの未来が樋山には想像できない。
両想いにならない未来も想像できないのだから、まったくいい加減なものだ。
夏休み前には一段落してしまうこの関係を崩したくなんてない。
「緒方、好き。すごく、好き」
耳元で囁いたって、彼には届かない。
聞く気がないんじゃない。聞こえていないから。
「緒方、好き」
緒方、聞いてよ。君にはこの声、届いてるでしょう?
どうすれば、振り向いてもらえるの。
なんで俺は拒否されていないの。――いつか、愛してくれる?
そこまで考えて溜め息が出た。
なるようにしかならないというのに。
昼休み終了まであと2分。
おわり。