図書室の主 | ナノ

図書委員の日常

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 幼い頃から一緒にいたから、だいたい幼馴染たちがどれくらいの成績かは見当がつく。おまけに内部生の情報網は、お互いの足の引っ張り合いが行われているために凄まじい。怪文書なんて日常茶飯事だ。
「ね、亮介。どうやって噂を止めたの?」
 樋山が訊いた瞬間、にやりとしか形容のしようがない笑みを浮かべた亮介は肩を竦めた。
「ヒロに訊いてくれ」
「なるほど……。瑞樹によろしく」
 もうひとりの幼馴染、寛樹の暴挙を、四人組唯一の良心といえる瑞樹が止めているのだろうと簡単に察しがついてしまい、思わず樋山までにやりとしてしまう。
 時計を確認し、手を振りひらりと身を翻す。時間を食ってしまった。
 迷惑ではない。むしろありがたいと思っている。だが、これからどうしようか。いきなり彼のところに行かないというのもおかしなものだし、第一、樋山が緒方から離れたくない。
 まったく面倒臭い世界だ。
 噂が事実であるにせよないにせよ、ホモだと周りから認識されただけでいじめられてしまう学校なんて。
 早く彼に会いたいと図書室に飛び込むと彼はやっぱり待っていてくれた。彼の隣に座り、ぼんやりとこれからのことを考える。
 冬の足音が聞こえてくる十一月。窓から吹き込む風は少し冷たいけれど体が震えるのはそのせいではない。
 もし噂が広まったら、いじめの標的になるのは緒方だ。樋山が、自分を安全圏に置きたいから楽観視しているわけではない。
 いじめる人間は、「自分までホモと見られたくない」から、異質に見える人間を徹底的に排除する。とはいえ、標的が内部生だと、幼い頃から知っていて少々後味が悪い。
 そうなると標的は絞られる。入学して日が浅く、繋がりのない外部生の方が追い出しやすい。たったそれだけのこと。
「夏扇? ああ、ホモが多い学校だよね」という世間の噂に踊らされた、いじめ。
 まったくそんなに世間の目が気になるか? と樋山も最初は呆れていた。
 世間が夏扇学園にホモが多いと言うのはやっかみだろうと思っている。名門のおぼっちゃま校と呼ばれる夏扇学園。
 幼稚園はともかく義務教育の小中を私立にやれる家庭はそんなに多くはない。高校からならやれると考えても、夏扇は中高一貫だから高校からは入れない。
 なのに誰かが真に受けて、ホモだと噂がたった人間を排除し始めた。本当か嘘か、なんて関係ない。「そう見える」ことが問題なのだ。
 馬鹿馬鹿しいが、実際に心を病み学園を去ったものがいるのも事実。ずーっと昔から。



 ぽん、と頭を撫でられ意識が浮上する。
「予鈴が鳴った」
 彼から気まずげに言われ真っ青になった。いくらぼーっとしていたとはいえ緒方連れ戻し係失格だ。
「いつ!」
「今だが……」
「ああまずい早く本出して」
 彼の差し出す本に印を押して階段を駆け上がって、ふと隣を見れば彼がいる。


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